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マイケル・スノウ『Presents』"見ること"の破壊性と"見たこと"で失われる瞬間について

大傑作。まず登場するのは画面中央に縦方向の棒状に圧縮された画である。これが徐々に変化する電子音と共に横方向へと広がり、縮小された正規画面を経て、縦方向に縮んでいく。続いて、真っ青な壁紙のベッドルームで眠る女→彼女が起き上がり、真っ赤な壁紙のリビングに行って戻ってという様を横移動の長回しで捉える。これはシットコムのセットのようでもあり、冒頭の画面変形と共に"覗き穴"としての映画の役割を強く想起させる。台詞も話しているが、針飛びしたように蹴躓く音楽とシーン番号をセットの外側から叫ぶ声によって、セットの中で行われる人間生活の模倣がそれとして際立っていく。横移動で実際に動いているのはセットの方で、後にこの"移動"によってセットは破壊される。ついにはレンズの先に取り付けられた透明な板によってソファやテレビなどが押しつぶされるまでに至る。我々が覗き、目線を動かしたからこそ、この"人間生活"は破壊されたのだ、という文字通り撮ることの暴力性を感じさせる。

残りの1時間は第二部となる。ドラムのビート音によって様々な場所の様々な瞬間の断片が次々切り替わり、結ばれていくのだ。それはコゴナダ『アフター・ヤン』におけるヤンの記憶=見たことによって保存された"瞬間"の記録のようでもあり、見ることによって曖昧さが失われる"瞬間"の記録のようでもある。シュレディンガーの猫みたいだな。固定されている瞬間は一度もなく、鳥や魚などの対象を捉えていたり、そこにある物の全体を見渡そうとしたりしながら、視線を動かすように忙しなくカメラが動いていく。原題"Presents"が"現在(present)"の集合体という意味なんだろうと、ここでようやく気が付いた。その点で、『中央地帯』を全世界に拡張したのかなとも思うなど。9割方パン/チルト/ロールだし。

・作品データ

原題:Presents
上映時間:99分
監督:Michael Snow
製作:1981年(カナダ)

・評価:90点

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