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ルアナ・バイラミ『私たちの世界』コソボ、失われた世代の青春

ルアナ・バイラミ長編二作目。前作『The Hill Where Lionesses Roar』は都会の大学に行きたい!という田舎暮らし女子高生三人組の物語で、最終的に大学に行けないので強盗団を結成していたが、今回は彼女たちがもしも大学に行っていたならというifストーリーのようにもなっている。それはどちらも、選択肢を潰されてコソボに残らざるを得なかった少女たちの物語でもある。主人公はヴォルタとゾエ、二人は従姉妹どうしである。ヴォルタの父親は紛争で亡くなっており、今は伯父夫婦の家に暮らしている(彼らの子供がゾエ)。田舎の村では体裁と評判が第一であり、二人もそれに巻き込まれかけたので亡父の車をかっぱらっていざプリシュティナへ!と思ったら次の瞬間に大学に入学しており、履修手続きを開始している。えーっと、いつ合格したんすか。学生寮とか履修関係で揉めてたので途中までマジでその場のノリで大学に来たと思ってたのだが、二人には通う資格がちゃんとあるようで、学生寮は一人部屋になってたことが問題らしい。あと舞台が何年のことなのかもよく分からない。このあたりの説明はかなり雑で、映画全体の印象すら決めてしまっているように思える。そのちょっと後で、舞台が2007年、つまり1999年のコソボ紛争から8年、2008年2月17日の独立宣言の直前であることが分かるのだが、そういうのって無用な混乱を招くだけなのでもっと早めに提示しておくのが良いのでは?と思うなど(まあ脚本書いてるとそれが前提になっちゃうから説明忘れちゃうのとかあるよね~って初心者かよ)。

プリシュティナの街は紛争の影響で廃墟だらけで、大学には資金がないからか戦争で亡くなったからか国を離れてしまっているからか教師が全然足りておらず、それでも形だけは開講して試験はあるという虚無空間になっており、国の荒廃が見て取れる。ちゃんと講師がいる授業もあるが、大学自体が終わってるので誰も真面目に受けていない。英語を勉強して通訳になりたかったゾエはここで夢を断たれる。そして、彼女は出口の見えない長いトンネルの中にいる現状に嫌気がさして、刹那的な自由を謳歌するためにクラブで踊る道を選ぶ。一方のヴォルタは経済学を真面目に勉強してきたという描写があり、大学でも授業もそれなりの熱意を持って聴いていたのだが、大人世代への幻滅と勉強しても将来の選択肢が増えるわけではないことに気付いたことで、早々に勉強への熱意は捨てている。二人を含めた田舎から来た女性陣は特に、旧来的な考えを持つ家族を説得しきれないままここにいるので、大学が終わってる今、どこにも行き場所がない。選択肢のなかった母親のようにはなりたくない(だから選択肢を探しにここに来たのに…)、という言葉はあまりにも痛々しい。その後、ヴォルタとゾエを含めた学生たちのグループは、当時のコソボを包み込んでいた不安と焦燥に身を浸していくわけだが、正直どのエピソードも上手くないと思う。基本的に場所変えて酒飲んでくだ巻いてるだけだし、途中からヴォルタが旧来的な家族を守る方向にシフトするのが唐突すぎるし、一心同体みたいな従姉妹どうしの決裂みたいなのも滑らかじゃないし(片方が動くと片方が止まるイメージ)、あまり感心しなかった。バイラミは映画監督になるために女優になって、現場で色々吸収したと語っていたが、まずは映画学校行って色々学んだほうが良いのでは?今回は脚本の混乱とコソボの混乱がマッチはしていたが、それは意図してのことじゃなさそうだし。

映画の冒頭ではコソボ紛争のビデオ映像が流れ、西欧は助けに来ない、夢を見るのは無駄だ、という悲痛な叫びが木霊する。コソボの大学に金が回ってこないのはアメリカのせいだ!とさえ言わせている。とはいえ、英語を学びたいしコーラは飲むし、国連兵相手にクラブで踊って外貨をゲットして喜ぶし、という西欧へのねじれた憧れと憎しみを描いていたのは好印象。それでも、大切なのは選択ではなく向き合い方、みたいな響きの良い決めセリフは、確かにその通りではあるのだが、それを貴方が言うか?という前作でも感じたグロテスクさがあった。バイラミには寧ろコソボ人ディアスポラの話とかを撮ってほしいんだが。コソボに残った人の物語を撮りたがる意味が分からん。罪悪感でもあるんだろうか?
→書き終わった後で、これって重要なキーワードな気がしてきた。2001年生まれで2008年に家族でフランス移住、2011年からフランスで活躍する彼女の中にある、ある種の罪悪感。まさしくアンドレア・シュタカ『Cure: The Life of Another』の主人公が彼女なのかもしれないと思うなど。二人の少女が同化するという同作の展開は本作品にも似ているのだ。

・作品データ

原題:Bota Jonë / Phantom Youth
上映時間:94分
監督:Luàna Bajrami
製作:2023年(フランス, コソボ)

・評価:60点

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