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ラヴ・ディアス『Jesus the Revolutionary』独裁政権を転覆せよ!ラヴ・ディアス流ディストピアSFアクション

ラヴ・ディアス長編五作目。多分、ラヴ・ディアス史上最多の死者数を誇る作品で、初の近未来SF映画。2011年、フィリピンは軍事政権に支配されていた。冒頭のニュース映像では、トップであるラセロス将軍が国民にとって"有害"な図書を燃やす呼びかけ映像で幕を開け、彼を生放送で糾弾した女性キャスターをスタジオからつまみ出す音声が後に続く(彼女は現在行方不明に)。しかし、メディアを支配下に置くラセロスも安泰ではなく、イスラム教分離主義勢力、民間レジスタンス、敵対するカストル大佐率いる軍人グループなどとの小規模戦闘が続いている状態だった。その混乱の中、物語の中心となるのは、詩人で革命戦士のヘスス・マリアノである(奇しくもジーザスと同じスペル)。彼はレジスタンスの一員だったが、同じ地区のメンバーに裏切り者がいることを知った上層部に皆殺しを命じられ、ある夜それを実行する。自身も負傷したヘススは昏睡状態のまま、将軍の部下サイモン大佐に逮捕されるが、サイモン大佐はヘススを利用しようと彼を秘密裏に解放する。基本的には嵐の前の静けさと突発的な銃撃戦の繰り返しで構成されており、"ジョージ・オーウェルとホセ・リサールとビデオゲームの悪魔合体"みたいな文言を色んな記事で見かけた(多分コピペだが日本では言ってる人いないので最初にコピペしとく)。確かに、ヘススだけ無限ライフなのかというくらい銃弾が当たらない。そのおかげで"伝説のヘスス"となるわけだが。残念ながら撃ち合いの描き方はあまり上手くないので、銃撃戦そのものはあまり面白味がないという致命的な欠陥がある。
サイモン大佐に解放され、軍部の追撃も生き延び続けるヘススは、やがて仲間をも手に掛ける革命運動に疑問を持ち始める。そんな矢先、レジスタンスの上司は"付いてこられないなら何れ排除する"みたいなことを言う。結局はレジスタンスなりカストル大佐なりがトップになっても、ラセロスと変わらないのだ。『停止』の主人公はそれに気付いて暗殺を止め、次世代の教育=文化の刷新に方針転換したが、本作品では敗走するカストル大佐を助けつつ、故郷の恋人とともに世界の果てに逃げるという方針を選ぶ。流石というか、五本目にして既に病んでる。

銃撃戦よりも興味深いのが、昏睡状態だったヘススを起こそうと可愛らしい努力をするサイモン大佐を描いた10分ほどの部分だ。流行りの音楽を色々掛けてみたり、枕元に座ってみたり、挙句の果てには耳元でヘスス作の詩を読み上げてみたり。久々にナチュラルにゾワッとするシーンを観た。

・作品データ

原題:Hesus, rebolusyunaryo
上映時間:112分
監督:Lav Diaz
製作:2002年(フィリピン)

・評価:60点

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