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ラヴ・ディアス『Burger Boy's』銀行強盗のカオスすぎるその後

ラヴ・ディアス長編二作目(本当は一作目→後述)。フィリピンには"ピトピト"方式という、200万ペソという低予算、7日間という短期間でポストプロダクションまで終えて映画を完成させるという映画製作メソッドがある。少なくとも70年代には存在していたようで、監督としてはエディ・ロメロが、プロデューサーとしては"ピトピト映画の女王"とも呼ばれるリリー・モンテヴェルデが数多くの作品を世に放ち続けたことで、80年代に死にかけたフィリピン映画界を救ったのだった(今ではまた別の方式となる所謂インディーズ系映画の方が主流)。90年代になると黄金時代を迎え、後に大物になる監督たちもここからキャリアをスタートさせていった。ラヴ・ディアスの初期作三つ、『Serafin Geronimo』『Burger Boy's』『Naked Under the Moon』もピトピト方式で撮られた映画だ。ちなみに、本作品は本人が初監督作品であると呼ぶように、『Serafin Geronimo』よりも前の1995年に撮られたものだったが、予算を超過したためにプロデューサーと喧嘩になって未完のまま放置され、4年後に尻を叩かれてようやく完成した一作だという。どういう心境だったかは分からないが、四作目『West Side Avenue』はアメリカを舞台とした5時間の作品なので、この間に覚醒したと見るのが一般的なようだ。

本作品は金儲けのために銀行強盗をした若者集団の物語である。犯罪を犯した青年たちが精神的にイカれてくるという話なのでオリヴィエ・アサイヤス『Disorder』に近いかもしれないが、取り敢えず儲けられる要素だけ詰め込んだキメラみたいな映画なので違うかもしれない。冒頭から死のピエロがテンション高めに近付いてくるわ、ゴツい天使やうさ耳みたいな悪魔が見えるわ、キャラ濃いおばちゃん探偵が乗ってきた白馬を銀行の室内まで入れるわ(『襤褸と宝石』かな?)、カービン銃振り回した神父が"悔い改めよ~"とか言いながら追ってくるわ、中々の遊びっぷりで楽しい。頻繁に銃撃戦もあるが、もはや誰が誰と戦ってるのかもよく分からない。演技もダサい劇伴も露悪的なカメラワークも全てが過剰で疲れる。意味分からん挿話が適当に並べられてるからか、『去年マリエンバートで』とか言われてて草。金を得た青年がホームレスに金を配るクロスカットで、貧困解決とかに全く興味なさそうな政府高官が記者を引き連れて態とらしくストリートチルドレンを抱き上げるシーンなど、後に繋がる部分も多少あるが、全体的にはなんかやべーもん見ちゃったなあという感じ。

・作品データ

原題:Burger Boy's
上映時間:103分
監督:Lav Diaz
製作:1999年(フィリピン)

・評価:80点

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