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ヤン・P・マトゥシンスキ『最後の家族』ベクシンスキーとその家族について

ヤン・P・マトゥシンスキ初長編作品。1977年から始まるズジスワフ・ベクシンスキー家の28年に及ぶサーガ。終焉の画家と言われながらもお喋り好きだったズジスワフはスタート時点で50歳手前だが、既に海外からもアトリエを見学に来るほどに成功した画家として創作活動を生活の中心に置いている。最愛の息子のトマシュは情緒不安定で自傷癖もあって、家族に心配をかけている。部屋を父親の絵画で埋め尽くすほど画家としての父親を崇拝していて、家族仲自体にヒビが入っているわけではないのが幸いだが、夫婦それぞれの老母との同居生活も含めて、それらの皺寄せはほぼ全て妻ゾフィアに行ってしまっている。余命幾ばくもないゾフィアが洗濯機の使い方をズジスワフを教えながら、自分が入ることになる墓の話をするシーンは本作品の最も象徴的なものだろう。次作『Leave No Traces』は1983年に起こった秘密警察による一般人暴行致死事件とその裁判を描いている。つまり、本作品と同じ時間を共有しているはずなのだが、共産主義社会や社会情勢の変化などは全く描かれず、ひたすら家族の物語に徹している。それは良い選択だと思うが、ベクシンスキーって政府からの弾圧とか無かったんかな?人が死んでばかりの映画ということで、スザンナ・ニキャレッリ『ミス・マルクス』を思い出した。義母の葬式とか妻の死体とか容赦なく撮影し、息子を気にかけながらも根本的に興味はなさそうなベクシンスキーを見ていると、冒頭で彼が"私の想像すること/惹かれることは全てメタリアリティの世界で起きている"と言っている通り、彼はリアリティすらメタ的に捉えようとしていたのかもしれない、と思うなどした。

・作品データ

原題:Ostatnia rodzina
上映時間:124分
監督:Jan P. Matuszyński
製作:2016年(ポーランド)

・評価:80点

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