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ファイト・ヘルマー『ゴンドラ』ゴンドラの上のユートピア

大傑作。ファイト・ヘルマー長編八作目。長年の友人だったバフティヤル・フドイナザーロフの代表作『コシュ・バ・コシュ』をヘルマー流に拡張しアレンジしたような一作。同作で登場した、ロープウェイと地上のレイヤーを横断するようなやり取り、カーゴのカーゴ以外の使い方(棺桶運搬や宴会など)等々を拡張して再現しつつ、本作品では二線のカーゴがすれ違うことを恋の駆け引きとして転用するなどのアレンジが見られるのが嬉しい。そうなると、同作の邦題副題"恋はロープウェイに乗って"は本作品の方がより直接的に合致しているかもしれない。そして何より、手数が非常に多い。すれ違うカーゴで交換されるのは視線や感情だけに留まらず物体から音楽まで様々だ。そんな一瞬のすれ違いのために、ありえないほど長い時間がかけられている。この豊かさも良い。

『コシュ・バ・コシュ』において、ロープウェイが結んでいた山の頂上と麓は、戦闘のない前者とある後者を対比させていて、"平和"の運び屋たるロープウェイの道を人間が辿り直すことで地上にも平和をもたらすような描き方をしていた。一方、本作品のゴンドラは山と山を結んでおり、ある意味でイヴァとニノの対等性を示しているようにも見える。また、山と山を結んでいるので、すれ違うポイントが相当標高が高くなるわけで、それが彼女たちだけの世界でもあり、同時に彼女たちが実際に暮らす世界からの遠さをも示している(製作する段階でも"二人の親友"と紹介して企画を通したそうだ)。だからこそ彼女たちは、ゴンドラから山の中腹にある駅に"降りる"のではなく、地面に"飛び降りる"必要があるのだ。ちなみに、ニノを演じたニニ・ソセリアは高所恐怖症だったとのこと。

・作品データ

原題:Gondola
上映時間:82分
監督:Veit Helmer
製作:2023年(ジョージア)

・評価:99点

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