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センベーヌ・ウスマン『Black Girl』セネガル、私にとってのフランスは台所とリビング

傑作。センベーヌ・ウスマン初長編であり、サブサハラアフリカで初めて国際的な注目を集めた作品。白人一家の下で働く黒人少女ディアウナの生活を、セネガル時代とフランス時代を交互に描くことで白人の植民地主義/人種差別主義的視線を浮かび上がらせる一作。セネガル時代は一家の乳母として子供たちと遊び、休日は恋人と外出するなんて生活をしていたが、フランスにやって来たら家の中に缶詰にされて家事雑用を押し付けられ、"俺黒人とキスしたことないんだよ~"などと一個人として扱われない生活を送ることになる。"故郷の人はディアウナはフランスで幸せに暮らしてるんだろーなと言うかもしれんが、私にとってフランスは台所とリビングとベッドルームだけ"って言葉が強烈。センベーヌ自身も二次大戦期は自由フランス軍に従軍していた他、24歳の頃フランスに密航して、パリのシトロエン工場やマルセイユの港湾で働いた経験があるらしく、本作品におけるフランスでの黒人の扱いも経験を基にしているのかもしれない。特にストを始めたディアウナに対して、病気か?金が欲しいのか?と頓珍漢な答えを出すとことかリアル。フランスの真っ白な部屋の壁に、ディアウナが持ち込んだアフリカの仮面がポツンと飾ってあるのが、明らかに四面楚歌な現状を表していて物悲しい。"黒人とキスしたことないんだよ~"と同じく、仮面は白人に取っては壁に飾る記念品だが、黒人に取っては顔、つまりアイデンティティであるので、反旗を翻すと共に仮面を壁から取り去る。また、小説家から映画監督に転向した理由として、祖国の識字率の低さを挙げていたセンベーヌらしく、本作品にも手紙が登場する。ディアウナの母親からディアウナ宛の手紙だが、二人共文盲であるため、意思疎通の間に二人もの他人が介在することとなり、しかもそれはフランス語であり、宗主国の暴力性がここにも滲み出ている。

上でも触れたセンベーヌ・ウスマンの経歴をざっくり。1923年1月1日、セネガル生まれ。戸籍上は1月8日生まれとなっているらしい。父親は漁師、母親とは既に離別していて、継母の下で育つが折り合いが悪く、悪ガキに育ったため伯父の下に送られる。この伯父、1922年にマルサスームの最初の学校教師として迎えられたほどの知識人だった(仏人行政官と衝突して失業中だった)ため、ウスマン少年はここで様々な見識を得る。教員免許取得を目指すも学校教師を殴りかけたことで放校処分となり、夢は潰える。このとき、14歳。以降、33歳で初長編小説『黒人沖仲士』を発表するまでの20年間を大きく三つに分割できるらしい。第一期は戦前ダカールでの模索時代。機械工だった兄弟を頼って就職し、悪い仲間と遊び回ったり、逆に夜学に通ったり様々な経験をした時代だ。第二期はフランス解放植民地軍時代。ニジェール等近隣国から北アフリカ、果はバーデン・バーデンまで赴いたらしい。1947年に帰国したウスマン青年はそのままダカール=ニジェール鉄道の大ストライキに参加する。第三期は再びフランスに渡ったマルセイユで沖仲士としての就労時代。ダカールから密航してマルセイユ→陸路でパリまで辿り着くも寒すぎて、シトロエンの工場は三ヶ月で辞め、マルセイユに舞い戻った。マルセイユでは製錬工の仕事を得るが、目を悪くして辞め、沖仲士の仕事を得る。このとき、沖仲士の組合には立派な図書館があり、そこにあった小説を読み漁った際、アフリカ出身黒人の小説が一冊もないことに気が付いたのが執筆のきっかけだったらしい。母国の識字率の低さや言語の多様さから映像への可能性を求めてモスクワに留学したのも含めて、行動力の権化みたいだな。

・作品データ

原題:La Noire de...
上映時間:60分
監督:Sembène Ousmane
製作:1966年(セネガル, フランス)

・評価:80点

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