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マルタ・ロドリゲス&ホルヘ・シルバ『The Brickmakers』コロンビア、搾取されるレンガ職人一家の物語

マルタ・ロドリゲス&ホルヘ・シルバの通算二作目。当時、コロンビア政府は映画製作に一切の関心がなく、ドキュメンタリー映画の製作は夢のまた夢だった。そんな中でマルタ・ロドリゲスは社会学者/人類学者として社会から疎外された階級の搾取に関心を持ち、彼らの姿を映像に焼き付けることを信条に活動を続けてきた。1962年に渡仏して3年間滞在した彼女は、そこでジャン・ルーシュの映画と出会い大きな影響を受けた。帰国後は映画製作に乗り出すも身内を含めた誰からも援助を受けられず、唯一独学で写真家になったホルヘ・シルバ(長年のパートナーとなった)だけが援助を申し出た。本作品は1966年から実に6年もの間、ボゴタの南にあるトゥンフエロ川沿岸でレンガ職人として働くカスタニェダ家の夫婦とその12人の子供たちを取材し撮影を続けた。彼らは朝から晩まで、不衛生で死と隣り合わせの環境でレンガを作り続けるが、土地も道具すらも彼らの物ではなく、全て手作業で作られ(料理には最新の道具が使われるというクロスカットの残酷さ)、それでも市場価格の1/10しか貰えない。中盤からは家長アルフレドが病に犯されているということ、そして酒を飲むと手に負えなくなるということが明かされ、視点が妻マリアに移る。アルフレドは稼ぎのほとんどを酒につぎ込むし、酔って暴れるので誰も雇いたがらず結局この仕事しか残っていないのだ。そんな家父長制社会構造にも鋭く切り込んでいく。終盤は娘の一人が洗礼のために真っ白なドレスを買ってもらい、それを着て村中を歩く映像が収められている。ベールで顔を隠しユラリと歩く姿の異物感は、存在すら顧みられずに死んでいった女性たちの亡霊のようですらある。ラストシーンはネルソン・ペレイラ・ドス・サントス『乾いた人生』のそれであり、"戦いは長い、今から始めよう"というカミロ・トレスの言葉が重ねられる。

・作品データ

原題:Chircales
上映時間:42分
監督:Marta Rodríguez, Jorge Silva
製作:1972年(コロンビア)

・評価:70点

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