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ヤン・シュヴァンクマイエル『Kunstkamera』ようこそ、我が"芸術と驚異の工房"へ!

大傑作!ヤン・シュヴァンクマイエル監督最新作。2018年の『蟲』が引退作と思っていたが、ロックダウン中に本作品を撮り始めたことで遺作は更新となった。これはホルニー・スタニコフ(Horní Staňkov)にあるシュヴァンクマイエルの工房"クンストカメラ(Kunstkamera)"の外観と内部の所蔵品を収めた紹介映画である。その名はもちろん、ルドルフ2世の作った"クンストカンマー"へのオマージュであり、アルチンボルド作「ウェルトゥムヌスとしての皇帝ルドルフ2世像」も守り神のように登場する。様々な絵画、デッサン、彫刻、版画、オブジェ、仮面、昔の作品に登場していたかもしれない奇妙な小道具たち、ツギハギされた骨で作られた謎の生物たちなど、ひたすら登場させていく。それは単なる紹介や記録といった枠組を超え、本来ルドルフ2世が意図したような、想像力を掻き立てる荒々しさと生々しさがある。たまにバスタオルとかが写り込んでおり、ここに生活している人間がいることを思い出させてくれる。それによって、ここがシュヴァンクマイエルの頭の中そのものであることにも意識がいく。"『蟲』が遺作なら、これは死亡記事だ"と書いている人がいたが、その形容も正しいと思えるほど、息もつかせぬ速度で映しても収まりきらないほどの数を誇る収蔵品の一つ一つに、彼の人生そのものが詰まっている。ある種の走馬灯のようなものなのだろうか。それに加えて、作中では言葉が一度も登場せず、それよりも雄弁なヴィヴァルディの「四季」がずっと鳴っているんだが、途中からイカれたリミックスが入ったり巻き戻ったりしながら、114分で"四季"を完走することになる。これもなんだか人生とのリンクを感じる(本当にリンクさせたいのは章立てと被写体のテーマ分けの方だと思うが)。

ちなみに、プロデューサーによると、もう一本『Athanor』という作品も準備しているらしい。これはシュヴァンクマイエルの映画製作プロダクションと同じ名前であり、シュヴァンクマイエルの個人的な心象風景を描いた作品らしい。
→『Athanor』は2020年製作のシュヴァンクマイエルについてのドキュメンタリー映画っぽいが…?よく分からん…

・作品データ

原題:Kunstkamera
上映時間:114分
監督:Jan Švankmajer
製作:2022年(チェコ)

・評価:90点

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