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Barbara Sass『The Scream』ポーランド、抜け出せない円環構造から届く叫び

Barbara Sass長編三作目。長編一作目『Without Love』と同じく奇声を発する女性が冒頭で登場する衝撃。しかし今回叫んでいるのはドロタ・スタリンスカ演じる主人公の方だ。しかも、刑務所から出所したての元泥棒マリアンナという、『Without Love』でスタリンスカが演じたエヴァと鏡像関係にあった少女と同じ境遇と名前なのだ。彼女は老人ホームで働き始める。真面目に仕事をこなしているが、収入も少なければ帰る場所もない。この世の果てくらい汚い実家には自分と同じような境遇の母親が新しい恋人を連れ込んでいて、マリアンナに居場所はない。とはいえ金もないので、どこに泊まるでもなく、結局実家に戻るしかない。この状況がまさしく彼女の状態を示している。彼女はあくまで真面目に働いているのだが、社会への順応の仕方が分からず社会も彼女を受け入れないので、自分の存在を確かめるかのように結局は古巣である犯罪者集団に一時的とはいえ戻ってしまうこともある。彼女の存在を見てくれる人間として、老人ホームに務める看護師の男と親しくなって、彼とともに団地入居を目指すが、ひたすらに夢が破れていく。驚かされたのは、二人で川辺にデートしに行くという作中でほぼ唯一くらい明るく楽しいシーンが、川に水死体が浮いているという絶望的な邪魔によって終わってしまうことだ。彼らには平穏が許されないのか。強烈な冒頭がラストシーンそのものであり、ある種の悲しい円環構造が閉じられたとき、本作品のマリアンナもまた『Without Love』のマリアンナと同様に、抜け出せない社会構造の中に取り残されているのだなと強く感じた。ただ、無字幕で観たので、老人ホームにいる嫌われ者老人との交流がどういう意味を持つのか(彼はあの場にいる時点である程度の肩書があるはず)分からなかったのは痛い。

・作品データ

原題:Krzyk
上映時間:88分
監督:Barbara Sass
製作:1983年(ポーランド)

・評価:70点

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