熱があり、頭がポーッとしてた日の夜、あるテレビ番組を観ながら考えごとをしていた。

その番組は、NHKの『ドキュメント72時間』である。

ある場所や施設、お店などに丸3日間密着して、そこで見られるさまざまな人間模様を定点観測するという趣向のドキュメンタリーである。神社や地方のスーパー、交差点、ネイルサロンなど取材場所は様々だ。

今回観ていたのは、国内最大級のホームセンターを取材したものだった。
そこで、一人で来店した年配の方のお話があった。

その方は、長年警察官として働きづめで、定年するまで妻と話す時間をあまりつくれなかったそうだ。そして、後2年で退職し、余生を妻とゆっくり過ごせるようになるというところで、妻は心臓病で急死してしまったと言う。

生前、妻が好きだった飾り付けや家具づくりの素材などを見ながら、「息子が妻とこんなトラブルを起こしたなあ」とつぶやく姿を観て、私の頭の中には「尊い」という言葉が浮かんだ。

「尊い」とはなにか？

辞書を調べると、このように出てくる。

① 身分・品位などが高い。高貴だ。たっとい。
② 敬うべきさまである。たっとい。
③ （精神的な意味で）価値が高い。貴重だ。また、意義深く重大である。
④ （感覚的な意味で）価値が高い。すばらしい。
（コトバンクより）

人や命などに用いるときは、②の「敬うべきさまである」や③の「意義深く重大である」の意味で使われている気がする。でも、じゃあなぜ「尊いと言われているものが、尊いと言えるのか」がしっくりこない。うーん。

「尊い」ってなんなんだ。命はなぜ尊いの？尊かったらなんなの？尊くなかったら、切り刻んで、燃やして、捨ててもいいの？尊くない人や尊くない命もあるの？

わからない。尊さなんて、本当はまったくわからない。あらゆる人間は尊くて、生かす必要があって、あらゆる生物にはそれが当てはまらないのはわからない。人間と他生物でなぜ扱いが変わるの？どちらも生物って枠では一緒じゃないの？知性や感情の表現が良くて、たくさんの人から感謝されている盲導犬は尊いの？人を噛みまくって、狂犬病で人の死を増やす犬は尊くないの？「何かが尊いこと」って、何と何と何を要素として、どんな基準で判断しているの？

尊くても、必要なら、大事だと思うなら、殺してもいいの？私は、あなたは、肉に、魚に、野菜に、「尊さ」をどう定義づけた上で向き合っているの？向き合う必要性がないと感じているの？わからない。まっっったくわからない。

「人の命って尊いよね」ってふりをしているけど、それがこの世界の前提であるかのように振る舞ってきたけど、本当はなんにもわかんない。いま大事にされている「尊さ」たちが、ぶっ潰れても、それはそれで楽しいんじゃないか、とも思う。でも、とても恐ろしいことだとも思う。

「尊いということにしておけば、あまり不都合は生じないし、
自分のやりたいことも上手くいくから、「尊い」と思うことにしよう。

そんな22年間をずっと生きてきた。

大切にしたい人はたくさんいる。ずっと続いてほしい言葉、気持ち、コミュニティ、愛、平和。どれも諦めないけど、それらが「尊い」から諦めたくないわけじゃない。そんな未来がただただ欲しいんだ。誰かのためじゃない、自分のために。諦めない、どんなに悲しいことがあっても、しがみついてでも、四肢が持っていかれても、挑み続ける。それが自分にとって「生きるということ」だから。

こうやって話を終わらせられたら、すごくシンプルだ。でも、私は「尊い」を感じてしまった。テレビで観たおじさんの言葉から、確かに感じてしまったのだ。この旅は長くなる、そんな気がしている。

今年も冬は寒いらしい。