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再開記念展 松岡コレクションの真髄:2 /松岡美術館

承前

 個人コレクションには、コレクターの嗜好がおのずと表れる。コレクターの名が冠された美術館を訪ねる愉悦のひとつに、この「好み」「カラー」といったものが感じ取られる点があろう。
 松岡コレクションには、気宇壮大でボリュームを感じさせる作が多数含まれている。その傾向は、前回触れた元染付の《青花龍唐草文天球瓶》や、松岡氏がことのほか愛蔵したという横山大観の大幅《梅花》などから象徴的にうかがえる。
 中国陶磁を見わたしてみても、民窯より官窯。真行草でいえば、草体のものは少ない。茶道具は初期に収蔵した数点のみで、ほかは鑑賞陶磁。また、大ぶりの作が多い。
 おもしろいのが朝鮮陶磁。収蔵品のほとんどは高雅な高麗青磁で、唯一の李朝染付は五爪の龍の大壺。これもやはり官窯の作だ。
 ちまっとした小品や「わびさび」を感じるもの、影のあるものは、松岡氏には選ばれなかった。明るくダイナミックな、松岡コレクションである。

 そのような傾向を保ちつつ、ある使命感をもって集められた一群も。
 1階の展示品がそれで、古代ギリシア・ローマの彫刻や古代エジプトの考古遺物、ヘンリー・ムーアなど近代西洋彫刻、ガンダーラからヒンドゥー、クメール、中国にいたる石仏……と、千変万化の内容。
 松岡氏はこのような、日本国内の美術館ではそうはお目にかかれないジャンルの作品を、意識的に取得していったのだった。ことに、古代ギリシア・ローマやヒンドゥー、クメールの彫像などのまとまった所蔵は、私立美術館としては現在も類をみない。

 益田鈍翁ら明治の数寄者たちは、日本美術の海外流出を食い止めるべく、使命感にかられて蒐集を展開した。
 戦後のコレクターである松岡氏は、それとはまた異なった志をもって、海外の文物を日本に請来したのであった。
 その恩恵に浴し、さまざまな異国の美を堪能することができた休日だった。

西日に照らされて輝くきめ細やかな大理石の肌を見ながら、遠くローマの都を思った


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