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西アジアのいきもの:1 /古代オリエント博物館

 夏休み期間中には、子どもたちを意識して、動物や鳥、魚、虫、それに植物といった「いきもの」の展示がさかんに催される。
 池袋・サンシャインシティの古代オリエント博物館ではこの夏「西アジアのいきもの」展を開催。リーフレットやポスター、展示室も、動物園を思わせるポップなデザインで統一されている。
 入口に「古代オリエント動物園」の臨時ゲートができていたり、展示の導入部に展示作品と風景写真をコラージュしたパネルを設けたりと、遊び心あふれる内容となっていた。

 展示構成も「動物園仕様」だ。
 動物を生息地ごとに山地、森林、平原、乾燥地、水中の5つのゾーンに分け、鳥類、虫類、植物を加えた8部構成となっている。実際の動物園に近いゾーニングである。
 各ゾーンで紹介されるいきものたちを順に挙げると、次のようになる。

ヤギ ヒツジ ウシ コブウシ シカ イノシシ クマ ゾウ サル ライオン ヒョウ ハリネズミ ウサギ キツネ イヌ オオカミ ジャッカル ガゼル ロバ ウマ ラクダ イルカ 魚 カエル 貝 鳥 猛禽類 カモ アヒル ニワトリ クジャク ヘビ トカゲ カメ サソリ 虫

 個人的にはネコの不在がつい気になってしまうが、コブウシやジャッカル、ガゼル、ラクダなどには、西アジアらしい地域性を感じる。
 本展でいう「西アジア」とは、図録によると「東はイラン、西はトルコまで、北はジョージア、南はイエメンまでの範囲」を指す。アラビア半島とその周辺、メソポタミア文明の栄えたあたり。ネコの神がいたエジプトは、含まれていない。

 ウェブで知った際は「館蔵品展かな?」と思ったものの、これが違った。
 国内の施設や個人から、かなりの点数を借りてきている。開館45周年の記念展にふさわしい力の入りようである。

 古代オリエント博物館のものを除くと、目立ったのは滋賀のMIHO MUSEUMと山梨の平山郁夫シルクロード美術館からの借用品であった。
 MIHO MUSEUMの所蔵品には、美的で鑑賞性が高い作が多い。金銀に輝き、細工が凝っていて大きいものは、たいていがここの所蔵。
 獲物(ウシ)をめぐって組んずほぐれつ争う2頭のライオンを表した《双獅子形容器》に、シルエットだけで写実性が伝わってきそうな《雄鶏形容器》(いずれもペルシア  前8~前6世紀)。2本足での立ち姿を自立するように、破綻なく表すことに成功している。きわめて精巧で、超絶技巧といってよいものだろう。

 平山郁夫シルクロード美術館からは、キラリと光る小品が多数来ていた。かわいらしく、思わず欲しくなる逸品ばかり。座右に置き、掌で玩んだものだろうか。
 《幌(ほろ)を積む馬像》(シリア  前2000年紀)。

 この名称を確認するまで、馬の背でなにが起きているのか、把握できなかった。翼が生えている……わけではなく、人や荷物が乗るところに、雨風を避けるフードがついているのだ。赤帽のトラックを思い出した。
 拙なる味わいもあるいっぽう、顔や耳、たてがみの造作は意外に細かい。

 開催館である古代オリエント博物館の所蔵品は、これらの館のものに比べればいくぶん地味な印象のものが多いけれど、大きなものから小さなものまで、展示の根幹をなしていた。《犬の足跡がついた日干煉瓦》(シリア  前9世紀頃)や《カエル形分銅》《巻貝形分銅》(メソポタミア  前2000~前1600年頃)など。


 ——他にも、東京国立博物館や東京大学総合研究博物館、横浜ユーラシア文化館、馬の博物館、個人などから借用。日本国内所蔵の「西アジアのいきもの」名品展とすら、いえるのかもしれない。
 次回はそのなかから、動物をうつわに取り入れたおもしろい作例を、いくつかご紹介するとしたい。(つづく

東アジアのいきもの・猫のさとる



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