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MOTコレクション「歩く、赴く、移動する 1923→2020」:5 /東京都現代美術館

承前

 関東大震災から戦後の復興期まで、最初の2室に4回分を割いてしまった。展示面積だけでいえば、コレクション展全体の10分の1程度の範囲にすぎない。
 だが、ここは「現代美術館」。3室め以降、制作年代はどんどん新しくなり、現役で活躍中の作家たちによる作品が中心となっていく。独断と偏見で、ご紹介していきたい。

 麻生知子と武内明子による「ワタリドリ計画」は、全国を渡り歩き、その土地を詳しく取材して制作活動をおこなうプロジェクト。その終着点となったのは、現美がある深川界隈であった。本展の一区画を用いて、初お披露目。

絵画に立体、写真、映像。さまざまな表現方法がとられている

 取材といっても堅苦しくはなく、気になったものはカメラに収め、なにか変わったおいしそうなものがあれば旺盛に食べる。そんな「漫遊」といった趣が、作品にも漂っていた。
 鑑賞者も、展示室を漫遊。興味をひかれるお店や場所がいくつもみつかり、じっさいに訪ねてみたくなったのだった。

訪ねてみたい筆頭は、桜鍋の「みの家」(左)
スライスチーズの掛け布団で眠るのは、チーズ好き人類共通の夢……というのは、わたしの個人的な想像。深川界隈のマップ上で眠る2人が、やきもので造形化されている


 福田尚代の作品。古い文庫本を切断し、変形させ、ページを折るなどしたうえで、さらに……緑色の細かい刺繍を施している。

 まるで、そこから苔が生い茂ったようにも、はたまた紙が樹木の状態へと還っていくようにも感じられた。
 このように、古本に思いもよらない加工を施す福田の作品は、本や物語、言葉、文字といった対象に関しての深い思索へと、われわれを誘っていく。

 上の階・最初の展示室では「生誕100年  サム・フランシス」と題し、アメリカ抽象表現主義の大家のメモリアルを祝する展示を開催。

 点数としてはわずか4点となるが、1点が超巨大。監視員さんの見え方に、ご注目。

サム・フランシス《無題(SFP85-95)》。上の写真は部分(以下、サムの作品はすべてアサヒグループジャパン株式会社からの寄託品で、1985年制作)

 このクラスの超大作が、展示室の四方を取り囲んでいる。
 真ん中のベンチに腰かけて見わたすと、奔流する色はもちろんのこと、バックの白が、さらに猛烈に迫ってくるのを感じた。4方向からの「圧」がすごい。しかし、それが、いい……

上の写真・左側の壁に掛かる《無題(SFP85-110)》
同・右側の壁に掛かる《無題(SFP85-109)》
同・向かいの壁に掛かる《無題(SFP85-58)》。下の写真は部分

 サム・フランシスの作品に関しては、日本では出光美術館が最大のコレクションを誇っているものの、他の収蔵品との取り合わせがむずかしいからか、展示ではかなりのご無沙汰となっている。
 またいつか出してくれないかな、もしかしたら長期休館に入る前の展示で、少しは出してくれるかな……などと、サムの身を案ずるのであった。

 現代の奇才・横尾忠則の作品は70点。
 ここ2階の展示は、もうすでに「歩く、赴く、移動する」のくくりからは解放されているけれど、やっぱり気になってしまうのは、すきな「暗夜行路」のシリーズ。
 どこにでもありそうな、どこにもないY字路。どちらに歩いてゆくべきか……

横尾忠則《暗夜光路 二つの闇》(2001年)
《暗夜光路 赤い間から》(2001年)


 コレクション展示室の最後に常設されている、宮島達男《それは変化し続ける それはあらゆるものと関係を結ぶ それは永遠に続く》(1998年=写真は部分)。
 デジタルカウンターの大作である。

 絶えず点滅する数字をじっと見つめていると、時を忘れる。きょう、ここまでに観てきた作品のあれこれが、浮かんでは消えていく……展示の大トリにはまことにふさわしい作品だと、いつも思う。
 きょうも、よき鑑賞であった。


 ※4月からのコレクション展。

 ※神戸の横尾忠則現代美術館では、Y字路ばかり集めた「横尾忠則 ワーイ!★Y字路」展が開催中。



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