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学生服リユースショップさくらや研究【創業ヒストリー編その1】

 北は青森から南は鹿児島まで、全国54店舗を展開する「学生服リユースショップさくらや」。その起業の原点は、創業者である馬場加奈子社長の「母親としての体験」でした。

始まりは、身近な「困りごと」

 「さくらや」は、2011年1月に香川県高松市で誕生しました。そのきっかけは、創業者である馬場加奈子さんが経験した、学生服をめぐる「困りごと」でした。

 シングルマザーとして一男二女を育てる馬場さんは、当時小学4年生だった次女から「制服がきつくなったから、新しいのを買って」と言われたそうです。ちなみに、香川県では公立の小学校にも制服があります。

 3人の育ち盛りの子どもを育てる馬場さんにとって、上下で2万円する新品の制服を買うことは大きな負担でした。しかも、次女の制服は1年前に買い替えたばかりだったのです。当時の馬場さんは、家賃や光熱水費の支払いにも困る生活が2年ほど続き、実際に電気やガスが止められてしまったこともあったそうです。

 そこで、少しでも安く入手できないかと、大型リサイクルショップを回るのですが、学生服の取扱いはありません。また、当時は生命保険の営業でフルタイムで働いていたので、学校の行事にも参加できず、おさがりを頼めるママ友もいませんでした。

自分だけの「困りこと」じゃなかった

 そこで馬場さんは、会社の同僚に相談します。すると、

「近所の人と交流がない」
「隣に住んでいる人と会ったこともない」
「譲ってもらっても、お礼をどうすればいいのか気を使う」
「いらなくなった学生服を渡しても、押し付けるようで気が引ける」

などと言われ、学生服の悩みを持っている人が多いことが分かりました。女性の社会進出に伴って地域のお母さんたちの付き合いが希薄になり、昔はあった近所の「おさがりネットワーク」がなくなりつつあるのではないか、と馬場さんは感じました。自分だけの困りごとだと思っていたことに、周りのお母さんたちも共感している。これが、「学生服の中古ビジネス」を思い立ったきっかけになりました。

 自然とそんな発想に至ったのは、かつて公務員(消防士)をしていた馬場さんのお父さんが脱サラして、お母さんとともに中古車販売業を営んでいたという家庭環境に起因しているのかも知れない、と馬場さんは言います。若い頃から知らず知らずのうちに「起業家マインド」が育っていたのでしょう。また、以前から「子どもたちと一緒に過ごせる、時間の融通の利く仕事をしたい」と考えていたのも、起業に向かわせる原動力になったそうです。

 思い立ったら動かずにはいられない馬場さんは、中古学生服のビジネスについてリサーチしました。中古の学生服を扱うお店は、当時はリサイクルショップを含めて存在しませんでした。馬場さんは参考になるお店を探しますが、なかなか見つかりません。ようやく「東京の池袋にあるようだ」と見つけて香川から駆け付けた馬場さんでしたが、行ってみたら、それはマンションの一室で、新品定価の制服よりも高い値段が付けられていました。趣味の人向けのお店だったのです。

「ここは私がやりたいお店じゃない」
「私はお母さんのためになるお店をやりたい」

 理想の学生服リユースビジネスを追求してリサーチを続ける馬場さん。制服の価格は学校ごとに異なるからか、あまり公表されておらず、調べても一覧になっているものはありませんでした。そこで、高松市内のお母さんたちに聞き込みを行い、約3年かけて320校分の買取価格と販売価格をまとめました。リユース業界についても独学で勉強しました。

 そうやって研究を続けた結果、我が子が着た学生服を譲りたい人、中古の学生服を買いたい人、それぞれニーズがあり、両者を繋ぐサイクルは「Win-Win」だと確信しました。

 同業者も参考例もなく、不安がないわけではありませんでしたが、

前例がなければ自分が作ればいい

 馬場さんはそう決心して、2010年6月、4年間の生命保険の営業の仕事で貯めた300万円の貯金を元手に、自宅で起業したのです。

続く

(↑さくらやの「だいたいのこと」は、この本で分かります。)

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