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人は忘れるためにメモをとる 鬼才クリストファー・ノーラン監督の「メメント」【ネタバレなし】

新文芸坐で「メメント」を見てきた。

「ダークナイト」「インセプション」「インターステラー」などの売れっ子監督、クリストファー・ノーランの第2作。

10年近く前にDVDで一度見て、ノーランの鬼才ぶりに一気に心を奪われてしまった。

おそらく先にレオナルド・ディカプリオと渡辺謙が共演した「インセプション」を劇場で見ていたのだと思う。

それでノーランが好きになって、過去作を辿ったのだった。

「インターステラー」も劇場で見たが、こちらは宇宙が絡む話であまりノレず(「2001年宇宙の旅」は好きだが、宇宙にあまり心を惹かれないのだ😅)。

ロビン・ウィリアムズとアル・パチーノという大好きな俳優が共演した「インソムニア」もノーランの映画にしてはストーリーがいまいち。
ノーラン自身の脚本でないせいもあったろう。

この人は自分で脚本書いてる作品が多い。「メメント」もそう。
「映像作家」とも言うべき脚本も書ける映画監督は描きたい世界がハッキリしてる印象がある。

「メメント」はトリッキーな映画なのでいつか見直したいと思っていた。
まさか劇場で再見できるなんて幸せすぎる!😆

最近は情報が溢れすぎて事前にオチまで知ってから見る人も少なくない。
面白味が減るだけだからやめた方がいい😅

この映画も極力情報を入れないで見ることをオススメする。

ネタバレはしないが話の大枠だけ書くので、すでに見る気になってる人は以下の太字の中間部分を飛ばしてください😅

ほんと、何も知らずに見るのが一番。

いつから驚くって体験に価値を置かなくなったんですかねぇ。

少しだけ設定を説明 (読みたくない人は次の段落まで飛ばしてね)

妻をレイプして殺した犯人を探す男の話。

ただし男も犯人に殴られた後遺症で、記憶が10分しか持たない。

短期記憶というのか、昔の記憶はあるのに最近の出来事は10分経つと完全に忘れてしまう。

それで、男は犯人につながる大事な情報を忘れないために大量にメモをとったり、身体に刺青を彫ったりする。

ここから大丈夫です↓

事前の説明はこれくらいだろうか😅

この記事のタイトル「人は忘れるためにメモをとる」はアフォリズムなどではなく、どこかで聞いた話。

「忘れないためにメモをとる」という言い方はよく耳にするが、忘れないのだったらメモをとる必要はない(揚げ足取りみたいだが)。

いったんメモをとればずっと覚えてる必要がないから(つまり安心して忘れられるから)、人はメモをとるのだ。

つまり、忘れるためにメモをとっている。

たいていの人は自分が書いたメモを読み返せば、書いたときの記憶や感情や思考を思い出せる。

しかし、はたしてそれは自分のものなのだろうか?
というのが、この映画のテーマでもある。

メモがあれば抜け落ちた時間をまた繋ぎ合わせられるような気になっているだけではないのか。

思い込みともいえそうだが、そもそも信じるとは思い込みのことなのだ。

「嘘つけ!」と思うなら辞書を引いてください😅

私もびっくりした。「信じる」ってもっと純粋で崇高な概念だと思ってたが、ただの思い込みだったとは……。

「そうであると思い込む」が「信じる」です。

人は信じたいことしか信じない、とも言える。

最近の統一教会など、悪徳な宗教の騙しの手口を聞いてても感じる。

不安な気持ちにいかにつけ込むかが、騙しのテクニック。

「自分は簡単に騙されないよ!」と信じてる人こそ見るべき映画かも。

主演のガイ・ピアースは「L.A.コンフィデンシャル」にも出演していたイケメン俳優だが、重要な脇役のキャリー=アン・モスとジョー・パントリアーノはまったく知らない人だった(パントリアーノは懐かしの「グーニーズ」にも出てたらしい)。

日本版を作るなら竹野内豊、吉田羊、大泉洋だろうか?(監督は堤幸彦?😅)

呆気に取られるくらい脚本がうまく書けていて、ロサンゼルス映画批評家協会賞や放送映画批評家協会賞の脚本賞を受賞している。

クエンティン・タランティーノ監督の「パルプ・フィクション」も構成の巧みな脚本だが、あれが好きな人は「メメント」も刺さりそう。

ブライアン・シンガー監督の「ユージュアル・サスペクツ」も豪快などんでん返しで有名。
度肝を抜かれたい人に「メメント」はおすすめ。

とにかく事前にWikipediaやまとめサイトで調べてから見ないこと!

見ながら「わけわかんない!」って感覚に陥ってこそ、この作品を鑑賞する意味がある。

とはいえ、わりと親切な作りではある。
よほど理解力の悪い人でないかぎり、どんな時間構造になってるかはわかるのでは。

その上で、細かい部分の謎解きというか、ほんとに辻褄合ってる?と確かめたくなる。

これカップルや友達で見に行ったら、喫茶店で3時間は話せる映画ですね(何なら翌日も……😅)。

最近の日本のテレビドラマは、公式HPにご丁寧に相関図が書いてあったりする。
見る前から登場人物の関係性がわかってしまうのだ。

初登場シーンで「姉の夫 直樹」とかテロップが出るドラマもあって仰天する(すごい時代になりました……😂)

大河ドラマみたいに大勢出てくるならわかるよ!
セリフで人物の関係性をわからせる努力を完全に放棄。
まあそれくらい想定してる視聴者のレベルが低いんだね……。
「わかんない=つまんない」の式が成り立つ時代だもんね😂

コロンビアの作家、ガルシア=マルケスのノーベル文学賞作品『百年の孤独』は、一族の歴史を描いてるが、親が子供に自分と同じ名前をつけたりするせいで似た名前の人がたくさん出てくる。そのせいで混乱しやすい。

鼓直による二つの訳があり、新しい方の単行本には家系図がつけられている。

作家の保坂和志は「こんなのいらない。わけわからなくなるのがこの小説の面白さなのに。自分は家系図を書きながら読んだ」(要旨)と書いていた(私も古い訳で2回読んで、2回目は家系図を書きながら読んだ)。

わけがわからない、混乱する、迷子になる、というのもたまにはいい。

何もかも知ってるような、わかってるかのような世界で生きてると、思わぬ落とし穴がある。

「メメント」は第一級のサスペンスでありながら、記憶を扱ったフィクションの中でもおそらく群を抜いていると思う。

あなたの「記憶」観が変わります。

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