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過去作の礎に利する快作『スパイダーマン:ホームカミング』

『Spider-Man: Homecoming』★★★★。(4ツ星満点中、4ツ星。)

ソニーがサム・ライミ版3部作の成功と挫折を脇へ追いやり、数年のうちに『スパイダーマン』をリブートしたのは2012年だった。しかし『スパイダーマン3』と同様、『アメイジング・スパイダーマン』シリーズは2作ともフランチャイズ・コンプレックスにまみれ、世間一般の不評を買った。今作は、かつてのレバレッジを失ったソニーが、ディズニー/マーベルと本格的な提携を果たした記念すべき再リブート作。イギリス人俳優のトム・ホランドが演じる3代目のスパイダーマンは、ついにマーベル・シネマティック・ユニバースの中に居場所を見つけた。

制作費175億円(1ドル100円換算)にP&A費を加えた投資分に対し、北米興行は334億円(2017年11月現在)と大きくはない。しかし全世界880億円となれば十分以上に成功だ。契約上、マーチャンダイジングの収益は全てディズニーに入るという話なので、今後ソニーにとってどこまで魅力的なフランチャイズになっていくのかは、難しい判断ではある。ないよりは確実にいい。

[物語] 

スーパーヒーローたちを二分する戦い『シビル・ウォー』に飛び入り参加した、ピーター・パーカーことスパイダーマン(ホランド)。これで正式にアベンジャーズへの仲間入りを果たしたと思いきや...トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr)は10代半ばのピーターに対し、ことさらにつれない。譲り受けたスターク社製の特注スーツを持て余し、夜な夜な小悪党たちを探しては退治する退屈な毎日。ところが平和な日々の裏で、アベンジャーズ初集結の際に来襲した敵集団の科学技術を悪用する組織が暗躍しはじめていた。背伸びしがちな高校生の恋と成長と、ニューヨークの安全をめぐる、二重生活のせめぎ合いと戦いの日々がはじまる。

[評価]

マーベル・スタジオのプランニングに助けられ、ソニー屈指のビッグ・フランチャイズは息を吹き返した。真のスーパーパワーはケビン・ファイギのプロデュース能力にほかならない。バランスの取れた作品。

この一作が『スパイダーマン』シリーズ史上でもっとも出来がいい映画だと言うことは簡単だけれど、二度もリブートを経験した末の『ホームカミング』が過去の礎の上に成り立っていることは明らかだ。

サム・ライミ版のオリジン・ストーリーなくして若くてセクシーなメイおばさんは存在し得なかったし、二度目のオリジン語りが失敗したことが、マーベル陣営の介入を可能にした。そのマーベル・スタジオのこれまでの成功があってこそ、トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.)の登場と、彼の完全なるメンター的役割での立ち回りが実現した。 それら全てが、これまでよりもずっと高校生らしい日常感に満たされたスーパーヒーロー映画の完成に貢献している。

キャストの若さと、キャラクターたちの規模感の小ささは本来、大作映画にとってはリスクでしかない。ジョン・ヒューズ作品へのオマージュを直接的に見ることのできる作りだが、それを制作費百数十億円の映画でウリにするには、キャンバスが広すぎる。周囲を壮年の名優たちで補強するのは、そんな企画者の常套手段。今作の場合、特に映像的・物語的にも良いコントラストを演出する人選とプロット構成になっている。ダウニー・Jr.を味方に、そしてマイケル・キートンを敵に据えることで、スパイダーマンの役者不足感が強調されて良い。

トニー・スタークの小間使い役として登場するハッピー・ホーガン(ジョン・ファブロー)を引っ張り出したのも妙案だ。アイアンマン自身の登場シーン数を抑えられる上、他作品への深刻な影響なく、マーベル作品たちとの連続性をアピールできている。他にも、 ピーターの相棒役、ネッド役のジェイコブ・バタロンも、憧れの同級生リズを演じるローラ・ハリアーも、未成年的感覚と大人との距離感とが具合良く馴染む。

物語的には、ピーターが特製スーツを取り上げられてから最終決戦に挑む構成を筆頭に、企画陣のバランス感覚の良さがそこここに反映されている。この一本のために計8人ものライターがクレジットされているので、相当こねくり回された結果でもあるのだろう。

演出面でも、この20年で見慣れてしまったスーパーパワーの新鮮味を、いくつかの大きなセットピースの特性を活かすことで確保している。特に、郊外の背の低い戸建て住宅地での追走劇と、ワシントン・モニュメントの高さを活かしたシークエンスは、キャラクターの長所や短所を浮き彫りにする構造をしている。

唯一のドル箱・スーパーヒーロー・フランチャイズのキャラクターたちをこれでもかと「ちょい出し」するソニーの必死さも相変わらず健在だが…10代半ばの青春映画を、アクション映画と抱き合わせで体感するのには最適な一本ではある。

[クレジット]
監督: ジョン・ワッツ
プロデュース:ケヴィン・ファイギ、エイミー・パスカル
脚本:ジョナサン・ゴールドスタイン、ジョン・フランシス・デイリー、ジョン・ワッツ、クリストファー・フォード、クリス・マッケナ、エリック・ソマーズ
原作: スタン・リー、スティーブ・ディッコ(原作)/ジョナサン・ゴールドスタイン、ジョン・フランシス・デイリー
撮影:サルヴァトーレ・トチノ
編集:ダン・レーベンタール、デビー・バーマン
音楽:マイケル・ジアッチーノ
出演: トム・ホランド、マイケル・キートン、ロバート・ダウニー・Jr、マリサ・トメイ、ジョン・ファブロー、ゼンデイヤ、ドナルド・グローバー、ジェイコブ・バタロン、ローラ・ハリアー
製作:マーベル・スタジオ、コロンビア映画
配給(米):ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
配給(日):ソニー・ピクチャーズ・エンタテインメント
配給(他):N/A
:133分
ウェブサイトhttp://www.spidermanhomecoming.com/discanddigital/

北米公開:2017年7月7日
日本公開:2017年8月11日

鑑賞日:2017年7月8日??:00〜
劇場:Pacific Theaters Glendale 18

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