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のけ者たちへのアメリカ的な応援歌『シェイプ・オブ・ウォーター』

『The Shape of Water』★★★☆。(4ツ星満点中、3ツ星半。)

ルール:「答え合わせ」は「作品」と「個人」を切り離してます。話すのは前者についてのみ。後者への批判は目的になし、です。

『パンズ・ラビリンス』『ヘル・ボーイ』『パシフィック・リム』のギレルモ・デル・トロ監督の最新作は、かつて数々のモンスターを題材にしたユニバーサル映画を彷彿とさせる時代物のファンタジーだ。BAFTA賞やゴールデン・グローブ賞などの主要映画賞でも多数の部門で受賞およびノミネートを果たし、18年3月に発表されるアカデミー賞では今年最多の13部門ものノミネートを勝ち取っている。興行では、賞レースの追い風を受けて拡大公開が続き、デル・トロ監督のドラマ作品の中でも最高益を叩き出す勢い。米国内$55M(2/27/2018現在)に加え、公開を控える残りの国際市場の成績如何で、いかほどの黒字に転じるかが決まる。

[物語]

1960年代アメリカ西海岸。発話障害を持つエリサは、潰れかけの映画館の上階で暮らす独身女性。そんな彼女が清掃員として働く政府の研究施設に、ある日、大掛かりな水槽が運ばれてくる。エリサは、その中に閉じ込められた異形の水生生物に並々ならぬ興味を抱く。

[答え合わせ]

ギレルモ・デル・トロ監督が描く物語はつねに、作り込まれた箱庭的な舞台に、空想科学の小窓を授けることで展開していく。演出、美術、そして撮影の各側面が、油絵調に陰影の濃い、厚塗りなキャンバスを作り上げる。その前面へ、ユニバーサル映画黄金時代のモンスター・シリーズから飛び出したかのような怪物を投げ込んでみて、キャラクターたちがどう立ち回るか。その様子を観察するかのようにして展開する。

そんな「モンスター映画から飛び出した」クリーチャーたちの空想科学的要素は、「現実感」より「手作り感」が先行することにも、同氏の作品の特徴がある。『パンズ・ラビリンス』の目無しの化け物も、『ヘルボーイ』の主役や脇役も、そして今作の水生生物も、言ってしまえば着ぐるみだ。後処理による映像的な化粧ではなく、現場重視のプラクティカルな技術を用いることが前提。CG表現に慣れてしまった鑑賞者は、このローテク精神に馴染まなければ、彼の世界にはなかなか入れ込めない。

その上で、本作で賞賛すべきは、大きく3点ある。第一に、上記を前提とした技術面での画作りの完成度が、すこぶる高いこと。第二に、ファンタジー作品でありながら、自ら設定した時代背景とその社会性に敏感で、現実世界に即した繊細なテーマをバランスよく描く物語だということ。そして第三に、そんな物語を力強く伝えるため、キャスト陣から卓越したパフォーマンスをしっかりと引き出していること。フィルムメイキングにまつわる、いわゆる「クラフト」が群を抜いている。そして、その組み合わせがユニークだということにおいて、さらに抜きん出た結果が見られるのだ。

ラブ・ストーリーであるとともに、ホラー・ファンタジーでもある『シェイプ・オブ・ウォーター』は、表現が多少過激だ。クリーチャー・デザインのグロテスクさのみならず、流血や性的な描写を惜しみなく織り込むことで、映画としての存在意義を主張している。それらがMPAAレーティング上の「R」指定を与えられていることに、作り手もスタジオも、反省する様子はない。むしろそれらをもってして語られるべき映画だということを、物語は証明してもいる。性描写は暴力や血と対だという主張が、よくわかる。

主人公エリサを演じるサリー・ホーキンスは、発話障害を「再現」しているとはとても思えない、真に迫ったパフォーマンスを披露する。白人の典型を演じるマイケル・シャノンも、エリサの友人として活躍するリチャード・ジェンキンスも、心優しい仕事仲間役のオクタビア・スペンサーも、そして秘密めいた研究者に扮するマイケル・スタールバーグも、プロット上の役割以上の共感を呼び込む。

ただ、障がい者を障がい者が演じる理想の世の中からは、現実はまたまだ遠い。これは認めざるを得ない事実だということを、映画は図らずも証明している。

また、あえて難を言うなら、後半の収束に向けてのプロットに、ミドルポイントに至るまでのスペクタクルがないことは指摘しても良いだろう。3幕目に向けて箱庭的な世界が使い切られてしまったような印象は伴う。対して、物語のセットアップはジグソーパズルのピースをぴったりとはめ込んでいくような、正確さが際立っている。

突き詰めれば、負け犬や弱者に味方する、アメリカの良心を謳う作品だ。『スリー・ビルボード』などと比べると、アメリカにとって喜ばしい映画とも言える。

[クレジット]

監督:ギレルモ・デル・トロ
プロデュース:ギレルモ・デル・トロ、J・マイルズ・デイル
脚本:ギレルモ・デル・トロ、ヴァネッサ・テイラー
原作:ギレルモ・デル・トロ(原案)
撮影:ダン・ローストセン
編集:シドニー・ウォリンスキー
音楽:アレクサンドル・デスプラ
出演:サリー・ホーキンス、マイケル・シャノン、リチャード・ジェンキンス、ダグ・ジョーンズ、マイケル・スタールバーグ、オクタヴィア・スペンサー
製作:Bull Productions
配給(米):フォックス・サーチライト・ピクチャーズ
配給(日):20世紀フォックス
配給(他):N/A
:123分
ウェブサイトhttp://www.foxmovies-jp.com/shapeofwater/

北米公開:2017年12月08日
日本公開:2018年03月01日

鑑賞日:2018年01月??日??:00〜
劇場:Pacific Theaters Glendale 18

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