『廻廊にて』生涯を通して《美》と《生》に向き合い続けた画家、マーシャ
発行年/1963年
『廻廊にて』は辻邦生さんの処女長編です。亡命ロシア人の画家、マリア・バシレウスカヤ(バは原作ではワに濁点)(通称マーシャ)が残した日記や手紙、それに友人の言葉を手掛かりに、画学生としてともに一時期を過ごした日本人の「私」が、マーシャの内的彷徨に迫ってゆく物語です。画家と言いながら生涯に数点の作品しか残さなかったマーシャにとって、《美》とは、《芸術》とは何だったのか、《生》の意味はどこにあったのか。マーシャの生きた軌跡をたどりながら、辻邦生さんは静謐な文章で