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NASAの歴史9:アルテミス計画

前回は科学技術の視点でNASAの歴史を書きました。

元々このシリーズは、アルテミス計画初ロケット打ち上げ延期がきっかけでしたので、今回はその全体計画を触れて締めようと思います。


アルテミス計画成立の経緯と概要

結構歴代の大統領をめぐりわたっており、簡単に書くと下記の経緯です。

  • 2004年:ブッシュ大統領が2011年でスペースシャトル引退を決定し、同時に有人月面ミッション「コンステレーション計画(Constellation program)」を発表

  • 2009年:オバマ大統領が、「オバマケア(保険制度改革)」など、より実用的な路線を選び、上記計画はキャンセル

  • 2017年:トランプ大統領が、改めて有人月面・火星探査の実施を決定し、「アルテミス計画」と命名

名称の由来は。アポロ計画の由来でもあるギリシア神アポロンの双子の姉からとっており、後継の意味合いと女性による月着陸を示しています。

オバマ大統領時代に民間委託方針へ舵を切り、そこにうまくはまったのがスペースXで、アルテミス計画でも重要な役割を担います。

今さらですが、アルテミス計画の目的は、
「月に人類(特に女性と有色人種)を届けて、さらに月を基地にして火星へ到着する」
ことです。
既にその宇宙飛行士候補は公式サイト(こちら)で公開されています。

現時点でアルテミス計画は大きく3つのステージで構成され(4以降は提案中)、投稿時点ではその1章が始まったところです。

  1. 無人でのロケット/宇宙船打ち上げテストによる月周回軌道達成

  2. 有人での同上軌道達成

  3. 有人での月着陸

アポロ計画との大きな違いは、あくまで月は火星到着のための基地であり、月軌道上に「ゲートウェイ」と呼ぶ宇宙ステーションを構築することです。

出所:NASA(https://www.flickr.com/photos/nasa2explore/51669809836/in/album-72157716027881092/)

今回は主に、現在進行形の1についてその内容を深堀します。


アルテミス1の全体像


まず、下記がNASAが公開している全体マップです。

出所:NASA(https://www.nasa.gov/sites/default/files/thumbnails/image/artemis_i_3_28_22.jpg)

このルートへ打ち上げるロケットが、今最終調整中のSLS(Space Launch System)で、その最上部にオリオン宇宙船(ロッキード・マーティン社が開発)が搭載されています。

出所:NASA(https://www.nasa.gov/content/artemis-1-images)

このロケットは、実はスペースシャトルで使われたものを引き継いでいます。特にコアエンジンは同じタイプを採用しています。
もう少し言えば、オバマ大統領時代に見直された宇宙政策方針でSLSの開発方針が定まり、当初は2017年に打ち上げ予定でした。(何度も遅延)

今の観点から見ると、どうして民間シフトの時代だったのに、後に有人宇宙輸送も達成したスペースX社のロケットを使わないのか?と疑問に思うかもしれません。

実際当時そういった声も上がりました。
一応政府の説明では、積載重量がすごい(大体100トン近く)そうですが、ちょっとここは説得力に欠けます。

というのも、今後月周回軌道上に作る「ゲートウェイ」への輸送及びそこから月へ着陸させる宇宙船は別途民間が担うことが決まっています。
つまり、そこまでSLSに重荷を背負わせる必要はあまりありません。
あくまで推測ですが、やはり国としての誇りや失敗時のリスク(スペースXが有人飛行するときも議会から反発)を鑑みて、経験を積んだスペースシャトル仕様を採用したのだと想像します。(あとはスペースシャトル引退で失った雇用を確保したいという要素もあったのでしょうね)

そのゲートウェイと月着陸船ですが、月着陸船はスペースXのStarshipが2021年に選定されています。
選定直後に、競争していたジェフベゾス率いるブルーオリジン社が独占契約に対して訴訟を起こしたのですが、今のところは棄却されています。

ゲートウェイへの輸送ロケットもスペースXの名前は既に上がっていますが、こちらはまだ他の企業も参画する可能性はあります。

そして、ゲートウェイ建設はまだだいぶ先ですが、NASAは2018年に商業月面輸送サービス(CLPS)も設立して、民間の月面探査の道も拓いています。

ミッションのなかには、中国が史上初めて達成した月の裏側探査もふくまれており、一気に民間も交えた研究・応用が花開くかもしれません。


国際協調について

アルテミス計画がアポロ計画と異なるのは、着陸するヒトだけでなく、開発段階から国際的な協調で進められていることもあります。

2019年の発表直後に、カナダ・日本・ヨーロッパ宇宙機関(ESA)がアルテミス計画への参画を発表しました。

日本の協力内容は、発表されている範囲では、ゲートウェイの居住モジュールの建設や物資補給、月面データの共有、月面探査ローバーの研究開発(これにはトヨタも参画)が含まれます。

私がそれ以上に期待しているのは、日本人による月着陸です。
前述のとおり、女性と「有色」系による到着が象徴的な月面着陸の目標なので、可能性は大いにあります。

実際に2022年5月の日米首脳会談でも話題にあがっています。

また、「アルテミス合意」と呼ばれる国際的な月や火星を含む宇宙での資源管理について米国が発表し、投稿時点で20か国が合意しています。

内容は下記テーマに分かれており、過去に国連も近いことは行っていますが、その行使力含めてまだまだふわっとしており、これはこれで意義がある合意だと思います。

  • 平和目的の利用

  • 透明性の確保

  • 相互運用性の確保

  • 緊急支援

  • 科学データの共有

  • 宇宙遺産の保全

  • 宇宙資源の利用

  • 干渉の防止

  • スペースデブリ(ごみ)対策

今まで見たように、今回はアメリカ主導ではありますが、人類が深宇宙(火星以遠)を開拓する新しい時代に突入する象徴的な計画ともみれます。

但し、例えばアルテミス合意には宇宙大国ロシアと中国は含まれておらず、ゲートウェイと別路線の宇宙ステーションを建設中または予定です。

そのあたりの国際的な協調はまだまだ課題がありますが、ぜひ前向きに次回の再々打ち上げテストの成功を願いたいと思います。

NASA運営のアルテミス計画の特設サイトはこちらです。

※タイトル画像Credit:NASA

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