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ネアンデルタール人と現生人類の交差点

今年のノーベル生理学・医学賞は、ネアンデルタール人のゲノム解析などで功績を挙げた方でした。過去に紹介した投稿を引用しておきます。

やや補足すると、ゲノム解析だけで完結するわけではなく、そこから得られたデータから統計的に(今風にいえばAI的に)推測します。
これは考古学に限らず、自然科学であればこういった手続きは必須です。
(一時期「統計学は最強の学問である」というビジネス書が流行りましたが、ビジネスの世界でも多くの領域で有効です)

で、ネアンデルタール人と現生人類は交雑していた、ということをゲノム解析で突き止めたわけですが、厳格には、同時期にある地域内で共生していたことを示す直接的な証拠は得られていません。

意外に思うかもしれませんが、今でもその証拠探しは進められており、最近のNature掲載論文で、その進展が報告されています。

ようは、
同地域で見つかった両化石を調べると、1400年〰3000年の期間重複がある、ということです。

シビアに言えば、交流があったかどうかの証拠ではないですが、ただこれによってその可能性は高まったといえるでしょう。

その年代を特定したのは、冒頭の過去投稿でも触れた考古学の第一次科学革命「放射線炭素年代測定法」です。(同位体存在比率測定です)

一応両化石の背景も説明しておくと、フランスとスペイン北部17か所の考古遺跡で出土した合計56点のネアンデルタール人と、同地域における現生人類の人工遺物(28点ずつ)で、下記が測定による結果です。

・ネアンデルタール人:過去約4万5千年〰約4万年前に存在していた
・現生人類:最初に同地域で出土が見つかったのは約4万2千年前

ただ、素朴に考えると、交雑、つまりDNAに含まれるということは物理的に遭遇したと想像すると思います。

これはまだ厳格には確定しておらず、今回の化石にある4・5万年前よりもはるか前、数十万年前から交雑していたのではないか?という仮説も提唱されています。

元論文はこちらから。なお、タイトル画像は現生人類(左)とネアンデルタール人(右)の頭骨の比較で、クリーヴランド自然史博物館所蔵。(PHOTOGRAPH BY HAIRYMUSEUMMATT)

これも、本文内で著者も認めてますが、まだ荒い仮説にすぎず統計的な確からしさを高めるには、古代人のゲノムサンプルがもっと必要とのことです。
現時点では、網羅的なゲノム解析が実施されたのはネアンデルタール人が3体、デニソワ人が1体だけです。

今後の発掘された数と、統計学的な手法の掛け算によって、冒頭にあるような比較的しっくりくるヨーロッパで初遭遇して交雑した仮説か、または後半で触れたような、初期の現生人類でのDNA分岐による淘汰圧なのかは、まだ白黒はつけそうになさそうです。

ただ、これも我々の思考パターンあるあるですが、どちらかの二者択一である保証は全くないので、仮説自体も交雑していることも視野にいれて今後の成り行きを見守っていきたいと思います。

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