Tetsuya KOJIMA

東京工業高等専門学校情報工学科教授。日本地ビール協会(クラフトビアアソシエーション)講…

Tetsuya KOJIMA

東京工業高等専門学校情報工学科教授。日本地ビール協会(クラフトビアアソシエーション)講師・マスタービアジャッジ。著書に『はじめての情報理論』,訳書に『コンプリート・ビア・コース:真のビア・ギークになるための12講』がある。北海道札幌市生まれ。

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  • ビアスタイルのはなし

    さまざまなビアスタイルについて24回のシリーズで記事にしてみました。 コメントや感想、お待ちしています。

最近の記事

おまけ 〜謝辞にかえて〜

この連載は、2019年末に出版された私の訳書「コンプリート・ビア・コース〜真のビア・ギークとなるための12講」の販売促進と同期したイベントとして企画されたものである。 この訳書やビアスタイル・ガイドラインにも書かれていないことがらについても個人的にまとめ、自分の言葉で綴ってみたいという思いもあったので、週3回更新というハードスケジュールであったが、チャレンジしてみることにした。 改めていくつかの文献に当たってみることで、発見もあったり、謎が謎のまま残ったものもあったが、自

    • Episode 24: ビールの現在と未来〜ビアスタイルは生きている〜

      さて、ビアスタイルに関する四方山話を書いてきたこの連載も今回で最終回。最後は、ビアスタイルの現在とこれからについて思いをはせてみよう。 ビアスタイルガイドラインに掲載されているスタイルは、伝統的に作られており、現在も多くの銘柄がリリースされているものもあれば、前回扱ったような歴史的なスタイルで最近になって復刻されたものもある。 さらには、醸造家のアイディアでこれまでになかった新しいスタイルが創出されたものもある。その逆で、他のスタイルに併合されたり、抹消されるスタイルもあ

      • Episode 23: ヒストリカルビール〜先人たちの暮らし〜

        前回はラオホビアを取り扱い、その中で、古いビールは多かれ少なかれスモークされた麦芽を使っていたということを述べた。 今回は、その歴史的に古いビアスタイル、現在のガイドラインで「ヒストリカルビール」に分類されているスタイルを紹介しよう。 ただ単にそれぞれのビアスタイルについて書くだけではなく、それらを貫く共通の特徴があることについても言及しようと思う。こうすることにより、それぞれのスタイルの地理的な特徴や、当時の人々の生活様式などもビールのキャラクターに反映されていることが

        • Episode 22: ラオホビア〜火のないところにも…〜

          新型コロナウイルス感染症に伴ういわゆる「巣ごもり需要」や「ぼっちキャンプ」ブームの影響か、燻製キットが売れているらしい。 いいねぇ、燻製。「煙」の記憶は人類にとっての「火」の記憶なんだという話をどこかで聞いたことがある。「火」の発見によって、人類は暗い夜でも明かりを灯し、暖をとり、加熱調理する技術を手に入れた。その記憶があるから、人は燻製に惹かれるんだと。 いやぁ、それは流石に話が飛躍してんじゃないの?と思うんだが、今回はその燻製のような香りを持つビール、ラオホビアの話。

        おまけ 〜謝辞にかえて〜

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          26本

        記事

          Episode 21: シュヴァルツビア〜アンビバレントな魅力〜

          前回は、英国発祥の黒いエールであるポーターとスタウトを取り扱った。今回取り上げるのは、黒いラガー、ドイツ発祥のシュヴァルツビアである。かの文豪ゲーテも好んで飲んだと言われる黒ビールである。 みなさんは黒いビールにどのようなイメージをお持ちだろうか?どっしりとして重い、または力強いというようなイメージではないだろうか?実際、"stout" 自体にも「強い」という意味があるので、致し方のないところかも知れない。 ただ、実際はブラウン・ポーターやアイリッシュ・ドライスタウトも決

          Episode 21: シュヴァルツビア〜アンビバレントな魅力〜

          Episode 20: ポーターとスタウト〜黒く塗りつぶせ〜

          今回は、英国発祥の黒ビール、ポーターとスタウトを取り上げよう。スタウトは厳密にはアイルランド発祥なんじゃないの?という方もいるかも知れない。確かに。 ただ、話はそれほど単純ではない。ポーターとスタウトの間には、その成り立ちから味や香りの特徴にいたるまで、切っても切れない深い関わりがあるのだ。ビールの色と同じように、その関係性については、よーく調べないと、黒く塗られてわからないといった状況であるとも言えるのである。 ポーターは、高温で焙燥されたロースト麦芽を用いることで、見

          Episode 20: ポーターとスタウト〜黒く塗りつぶせ〜

          Episode 19: 木樽熟成ビール〜時のいたずら〜

          現代のビールは、一般的にはステンレスやアルミの樽で発酵・熟成が行なわれる場合がほとんどであろう。19世紀以前は、樽と言えば木製で、前回扱ったブレタノマイセスなどを含む微生物やバクテリアが棲息することもあり、ビールの劣化の原因ともなっていた。 これに比べるとステンレスの樽には微生物が棲み着くこともなく、使用後はキレイに洗浄することも可能で、計画通りに安定した発酵や熟成を実現することができるのである。これにより、ビールそのものの品質も飛躍的に向上したと言える。 ところが、現代

          Episode 19: 木樽熟成ビール〜時のいたずら〜

          Episode 18: 米国のサワーエール〜ファンクの波〜

          「ファンク」という音楽ジャンルがある。1960年代にジェームス・ブラウンによって西アフリカのポリリズムをベースに原型が作られ、その後、1970年代に西海岸のロックと融合して全米で受け入れられるようになり、次第に大きな波となって世界的に広がっていった。 ビールの世界で「ファンキー」というと、すでに何度か登場した「ブレタノマイセス」という野生酵母によってもたらされる革や山羊、馬小屋などを思わせる香りのことを指す。 ランビックやセゾン、前回扱ったヨーロッパのサワーエールなどに見

          Episode 18: 米国のサワーエール〜ファンクの波〜

          Episode 17: ヨーロッパのサワーエール〜いい塩梅〜

          前回、扱ったランビックは、自然まかせのサワーエールであったが、いわゆる自然発酵だけが酸味の強いビールを作る手段ではない。それらの多くは上面発酵酵母と一緒に乳酸菌を用いることで酸味を作り出している。 歴史的には、中世の時代からヨーロッパのさまざまな土地でサワーエールが作られてきた。そのフレーバーの柱は、基本的には乳酸由来の酸味と麦芽由来の甘みのバランスが取れていることで、ホップの苦味は基本的に弱く、ホップアロマも決して強くない。この点もランビックとよく似ている。 あくまでも

          Episode 17: ヨーロッパのサワーエール〜いい塩梅〜

          Episode 16: ランビック〜自然の驚異〜

          18世紀以降、ビール醸造の技術は大きく発展してきた。すでに紹介したピルスナーやIPA、ペールエールなどを醸造する技術は洗練され、現在では世界中で高品質のものが作られ、楽しまれている。 一方、500年も前の醸造法が現代まで変わることなく守られており、中世の味わいを今に伝えるビアスタイルがある。ベルギーのランビックである。 ランビックは自然発酵のビールとして知られている。世界のビールの中には、いわゆるラボで培養されたビール酵母ではなく、自然の花や果物などから酵母を採取し、それ

          Episode 16: ランビック〜自然の驚異〜

          Episode 15: セゾン〜新しい季節に向けて〜

          新年、あけましておめでとうございます。この連載も早いものであと10回。残り少なくなりましたが、よろしくお願いいたします。 新年1回目は、ベルギーの伝統的なビアスタイル、セゾンを取り上げよう。 セゾン(Saison)はフランス語で「季節」。まさに新しい季節、新しい年を迎えるにはふさわしいようにも感じられるが、実はこの季節は新年、新春の今の季節を指すわけではない。 セゾンはベルギーのフランス語圏、南部のワロン地方で古くから作られているビールで、農家が自家醸造した、日本で言う

          Episode 15: セゾン〜新しい季節に向けて〜

          Episode 14: フルーツ&スパイスビール〜素晴らしき多様性〜

          この連載では、これまでいわゆる伝統的なビアスタイルを扱ってきた。今回ははじめて、伝統的なビアスタイルに新しい副原料や製法を導入した、いわゆるハイブリッドなスタイルを扱うことにしよう。 フルーツやスパイス、ハーブなどを副原料として用いたビールである。以前も書いたとおり、ビール純粋令が施行されているドイツでは、このような副原料を用いることはご法度である。 一方、ベルギーでは、古来よりフルーツやスパイスが副原料として用いられてきた。オレンジピールやコリアンダーを使用したベルジャ

          Episode 14: フルーツ&スパイスビール〜素晴らしき多様性〜

          Episode 13: スコッチエール〜モルトの国からの回答〜

          数回にわたったハイアルコールビール・シリーズも今回で最後。最後はスコッチエール(Scotch Ale)を紹介しよう。別名をウィーヘビー(Wee Heavy)ともいう。 スコットランドはモルト(麦芽)用の大麦の一大生産国である。ご存じのように、スコットランドは世界最大級のウイスキーの生産地であり、当然、モルトはウイスキーの蒸留にも使用される。 実は、スコットランドでは長い間、北部のハイランド(Highlands)でウイスキーが作られ、中部のローランド(Lowlands)では

          Episode 13: スコッチエール〜モルトの国からの回答〜

          Episode 12: ボック〜世界最強は誰だ?〜

          ここ2回ほどハイアルコールビールを扱っているが、今回は真打ちの登場である。ドイツのハイアルコールビール、ボックである。基本的にはボックはアルコール度数の高いラガーであるが、エールも存在する。 ドイツ語でボック(Bock)はオスヤギを意味する。事実、ボックの中にはラベルにオスヤギを用いたものも見られる。オスヤギの強いキック力とビールの力強さを結びつけ、それがビールの名称となったという説があるが、これは眉唾である。 ドイツでは、冬になるとアルコール度数の高いボックがリリースさ

          Episode 12: ボック〜世界最強は誰だ?〜

          Episode 11: トラピストビール〜聖杯を掲げよ〜

          この連載を始めることになったときから、この日はこのネタで行こうと決めていた。今回はトラピストビール。修道院で醸造されたビールの話である。 私が幼い頃通っていた幼稚園は仏教系で、浄土真宗のお寺の敷地に建っていた。しかし、だからといって私は熱心な仏教徒ではなく、特定の宗教への信仰心は持っていない。 この時期になると、街はクリスマスで騒がしくなる。最近ではイースター(復活祭)を祝う人も増えているのかも知れない。もちろん、信仰心から祝う人も多いのだろうが、実際にはそうでない人もい

          Episode 11: トラピストビール〜聖杯を掲げよ〜

          Episode 10: バーレイワイン〜特別な日には特別な一杯を〜

          12月に入って、私の住む東京も寒さがしみわたってくるようになってきた。こんな日は燗酒やホットワインなど、体を温めてくれるお酒を楽しみたくもなるものである。 ビールは暑いときにジョッキでガブガブ飲むもの、というイメージは、クラフトビールの普及とともに払拭されつつあるのではないかと思う。じっくりとビールの香りや味を楽しみながらグラスを傾ける、そんな楽しみ方をしている方も増えてきたのではないだろうか。 では、体を温めてくれるビールにはどんなものがあるのだろうか?そんな疑問に答え

          Episode 10: バーレイワイン〜特別な日には特別な一杯を〜