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あんなに嫌いだったのに

地方から東京へ就活遠征をしていた頃、私は東京が大嫌いだった。どこに行っても人・人・人…。なのに、心許せる人はほぼ皆無。

説明会や面接に疲れて、公園のベンチに逃げ込むも、東京は公園すら不自然なくらいに整っていて全然気が休まらなかった。地元の荒削りな山々と悠々と流れる澄んだ川、緑が生い茂る河川敷。それとは真反対だった。

東京のど真ん中は、山なんてビルに隠れて見えないし、川は底も見えないくらい深い色をしているし、河川敷なんてものはない。街路樹だって公園の植物だって綺麗に手入れされている。

「息苦しい」

上京してしばらくもその感覚は続いた。当時、一番驚いたのは、ビル街の真ん中にポツンと立つ一本の桜の木に、人びとが群がっていたこと。桜といえば、そこらを歩けばあるようなものだったのに。

『東京の人』にとってはそんなに珍しいの?」

そんなことを思った。思えば、東京に馴染めない寂しさが、東京への批判精神に繋がっていたところもかなりあると思う。

あんなに嫌いだった東京。今日、昔、就活の合間に息抜き(できなかったけど)していた公園を通りかかった。せっかくなので、足を踏み入れる。びっくりした。

「息ができる」

夕暮れ時の空の下、私は心底リラックスしていた。


ありがとうございます。いつかの帰り道に花束かポストカードでも買って帰りたいと思います。