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グルメエッセイを実食。〜向田邦子の「きっぱん」〜

 こんにちは。
 読書と食べ歩きが好きなので食に関するエッセイをよく読みます。本に登場するグルメの中で取り寄せ、購入できるものは実際に食することも。

 今回は向田邦子著『海苔と卵と朝めし』に出てくる銘菓を食べてみました。

「沖縄胃袋旅行」の章で沖縄料理について触れています。その中で自分が一番印象に残ったのが「きっぱん」というお菓子です。

私は何といっても「きっぱん」が好きだった

向田邦子、「海苔と卵と朝めし」、河出書房新社、 2018、p181

 正式名称は 「橘餅(きっぱん)」
 琉球王朝時代から受け継がれてきた伝統菓子で製造するには大変手間がかかり、明治時代より前は高貴な身分の者しか口にできなかった。現在きっぱんを販売しているのは那覇市に居を構える「謝花きっぱん店」だけとのこと。今も昔も希少なお菓子だと言えます。今回沖縄旅行時に現地で購入してきました。

パッケージはこんな感じ。

思ったより小さい。カレーライス食べる用のスプーンと比較。手のひらにもすっぽり収まる。

形は平べったい大き目の饅頭で、まわりは白い砂糖がけ、アンは細く切った果物の砂糖漬けである。

向田邦子、「海苔と卵と朝めし」、河出書房新社、 2018、p181
正にエッセイどおりの見た目。小さな醤油皿にちょこんとのっかりました。一口で口に収まりそうな小さな小さなお菓子。

子供が沢山食べると鼻血が出るといって、一センチぐらいに薄く切ったのを一度に一切れしか食べさせてもらえなかった。

向田邦子、「海苔と卵と朝めし」、河出書房新社、 2018、p181

 エッセイの中で向田氏が父からのお土産として、きっぱんを食す場面が出てきます。が、言い回しに昭和の香りを感じます。昔、こんな風にチョコレートの食べ過ぎは良くない!って躾られたという方いませんか?何だか微笑ましい。
 同じように薄ーくスライスして食べます。

切ってみたらこんな感じ。

 切っている間、柑橘系の香りがふわあっと周囲に漂う。記述どおり、柑橘系の果物を煮詰めて固めたような餡が入っている。ママレードジャムを煮詰めて固めたような。

周りの砂糖部分がポロポロ剥がれてしまった💦

さてさて、いよいよ実食!

……
美味しい…上品な甘さで、噛むほどに果物の風味が染み出す。柑橘系の香りの存在感強い。噛むと香りが口の中に充満するような印象。ほのかだけどきっちり香る。香りを食べてるみたい。

買った泡盛と一緒に食べて…大満足でした!

けど、凄く複雑な味。エッセイのように幼い子供がこれを食べて素直に美味しい!となるかなあ???…と、言うのはですね…↓

猛烈に甘くほろ苦かった。

向田邦子、「海苔と卵と朝めし」、河出書房新社、 2018、p181

 個人的にエッセイの中で気になってた部分。お菓子なのに苦いとな?
 確かに苦い。この苦さはやはり、柑橘系の果物特有のもの。レモンを齧った際に感じる爽やかな苦味に通じてます。個人的にはレモンのそれよりはすっきりしたとっつきやすい味に感じました。
 食べた時が子供だったのでより苦味の印象が鮮烈だったのかも。向田氏の感想は幼少期に食べた印象が強く反映しているのかな、と思いました。

お店の方が教えてくれた生ハム巻く食べ方もトライ!

 これも美味しい。生ハムと合わせるときっぱんの爽やかな風味が良いアクセントになってより美味しく食べられます。ただ、独特の苦味がぼやんとしちゃう感じありますね…苦味苦手な人はこれで食べやすくなるけど。慣れるとこのほろ苦さが恋しくなります。個人的にはシンプルにそのまま味わうのがベストだなあ、と感じました。

 甘ったるいお菓子ではありませんが、独特の存在感があり、一口でパクッと食べるなんてとてもできません。向田氏の「1センチぐらいに薄く切った」という記載も実際に食べた今では厚すぎる、と感じます。
 本当に数ミリくらいの薄さで舐めるようにお酒でも飲みながらゆっくり、ゆーーっくり食べるのが最大限に美味しく味わう方法なのだと実感しました。


 子供だから、という理由で一切れしか一度に食べられなかった少女、向田邦子。
 社会人の私は咎める人もいないので、一切れどころか、まるまる1個を長くゆっくりと自分のペースで味わうことができました。
 会ったことも話したこともない少女に、不憫なような、自分の大人の特権に優越感を覚えるような、妙な気持ちになりました。

 大人になった向田氏も同じような気持ちで、幼い自分を振り返りながら、誰にも邪魔されず好きにきっぱんを食べていたんだろうか?

 それはもう分からないのだけど。


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