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【読書感想】向田邦子『海苔と卵と朝めし』


 小説家、脚本家の向田邦子氏のグルメエッセイ。向田女史が食べたもの、調理したもの、果ては幼少時の食に纏わる思い出等、内容は幅広い。

 比較的裕福な家の出身で、文筆家としても売れて自分でも財力はあっただろうから、当時としても高価なものを食していた様子。海外の複雑な味のソースがかかったステーキ、個性的なビールを飲んだ話もあれば、国内の名店から取り寄せた銘菓、銀座の名店のご馳走等、ジャンルも国も問わず、ありとあらゆる美味しいものに触れていたことが綴られている。

 しかし、そんな向田女史の筆致力が一番に発揮されるのはシンプルな家庭料理の和食の話だったりする。料理がシンプル、庶民的で有ればあるほどその魅力は際立つ。昆布を炒めたり、魚を焼いたり、らっきょう漬け作ったり、そんな身近な料理の描写がこの上なく綺麗で愛おしく映る。

 自ら料理する和食のエピソードは本当に読んでいて楽しい。文字がすいすいと頭に入ってくる。夏のカラカラに喉が渇いた時に飲む水のようにすーーっと身体に文章が染み渡る。読むのが気持ちいい。食べることも作ることも本当に好きだったんだろう。好きなことを丁寧に丁寧に表現しようとしているのが伝わってくる。

 この本をつまみにお酒飲みながらゆるゆる読んでたい、そんな素敵な本だった。


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