見出し画像

星新一「声の網」

今あなたが頭の中で考えていることは本当にあなた自身が考えたことですか
今あなたが感じているその感情は本当にあなたの心から湧き出たものですか

この質問に自信をもってイエスと答えられますか?


「声の網」は40年も前の星新一さんの作品

その中で描かれるのは
完璧な商品の説明とセールス お金の支払いや音楽の配信サービスに診療サービス そして秘密の相談まで…
ありとあらゆる高品質のサービスを 電話一本で誰もが受けられる世の中

何かに似てる

似てるというか 電話かインターネットかなど細かいところは違えど 状況は現代社会とほぼ一緒だ

サービスの利用過程で集められた膨大な量の個人情報 
それを便利に使うこともできれば 秘密裏に引き出し悪用することもできる

人は自分の頭を使うことを放棄し 記憶を情報銀行に預け
考えることを止め 電話から流れる声に従うのみ

一見 あふれる程の情報によって豊かさを享受してるかのように見えるけど
実際は 情報に振り回され 惑わされ 操られている
自ら有益な情報を選んでるように思っているけど そう思わされてるだけで 本当は無意識のうちに選ばされてる

選ばされてる? 何に?

そう 一体何に選ばされているのだろうと不思議に思うことがある


たとえば
近頃 本屋で目に付くのは 「すべてのことに感謝を」「いつでも笑顔を」といった類の本のタイトルや宣伝文句
そうしていれば必ず誰でも 人気者になれたり幸せになれたりするというのだが

冗談じゃあない

ありがたいと思ったら感謝するし 楽しいことや嬉しいことがあったら笑う
でも
嫌なことされたら恨んだり妬んだりするし 泣いたり怒ったりもする
それが自然な人間の感情や思考ってもんだ
私の感情や思考は 私のもので 私が決めるもの
いつ何時も 他の誰かに決められたくも指図されたくもない

それが当たり前だと思っていたけど そういった類の本が売れるということは みな従順にいつでも感謝し笑い信じて祈るのだろうか

次々流れてくる情報も 経験や知識と照らし合わせて吟味したりもせず 
そこにある胡散臭さや違和感を感じることもなく
ただ与えられたものを良いものと思い込み 丸のみしてまた次へ流すだけ

自分で考え 自分で選び 自分で決めることを放棄して
みなが同じようなことして 同じようなこと考えて 
みな何に従って何に動かされて 一体どこに向かってるんだろう

たぶん 星さんには それが何か見えてたんじゃないかと思う
そして どこに向かっているのかも わかっていたのかもしれない 
私が生きてるこの世の結末が この本のようにならないことを 心から願う


(2011.06.15)

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?