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村上春樹「レキシントンの幽霊」

つかみどころのない不思議な雰囲気の七つの短編集
村上春樹さんは長編よりも短編の方が断然好きだ

「氷男」「七番目の男」もよかったけど

イチオシは「沈黙」

高校時代にクラスメートから無視という嫌がらせを受け それに耐えた男の話

頭の回転と要領の良さで人の注目と人気を集めるだけの浅薄な青木 主人公は彼に嫌がらせをして優越感にひたっている青木を見て憐れみにも似た感情を覚える


この男にはおそらく本物の喜びや本物の誇りというようなものは永遠に理解できないだろうと思いました。~ある種の人間には深みというものが決定的に欠如しているのです。~その深みというものの存在を理解する能力があるかないかということです。でも彼らにはそれさえもないのです。それは空しい平板な人生です。どれだけ他人の目を引こうと、表面で勝ち誇ろうと、そこには何もありません。
でも僕が本当に怖いと思うのは、青木のような人間の言いぶんを無批判に受け入れてそのまま信じてしまう連中です。自分では何も生み出さず、何も理解していないくせに、口当りの良い、受け入れやすい他人の意見に踊らされて集団で行動する連中です~彼らはそういう自分たちの行動がどんな結果をもたらそうと、何の責任も取りやしないんです。本当に怖いのはそういう連中です。

確かに 人を苛めて嬉々としている人間も怖いけど 自分の軸もなく安易に流される人間が一番怖い
誇り高く潔く孤独と闘った主人公はカッコいいと思う

山田詠美さんの「風葬の教室」が女の子版 こちらは男の子版といったところでしょうか 

もうひとつ ずしっときた文章

人は勝つこともあれば負けることもあります。でもその深みを理解できていれば、人はたとえ負けたとしても傷つきはしません。人はあらゆるものに勝つわけにはいかないんです。人はいつか必ず負けます。大事なのはその深みを理解することなのです。


(2009.01.04)


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