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和歌・美しい恋涙

「秋萩に置きたる露の風吹きて落つる涙は留(とど)めかねつも」山口女王

秋萩におりた露が
風にふかれて落ちるように
わたしの涙はとめどなく溢れてとまらない

*

「恋涙(こいなみだ)」という言葉があります


その名の通り、
恋をして流す涙のことをさします


この歌の恋涙の理由はわからないけれど…
秋は寒さが身に沁みて
人肌恋しくなる季節でもあり
物思いがまさる季節でもあります


恋しい人を想って嘆く時間が増えて
切なくなってしまったのでしょうか


秋雨に降られると
あっという間に散ってしまう、
ただでさえ可憐な萩の花。

その上に置かれる露にたとえるとは、
なんて儚いのでしょう


震えるように繊細な
恋する女性の恋心をあらわしています


万葉集ではよく、
「恋するあまりに今にも消え入りそうな思いをしている」という表現をされます

この歌もそれに通じるものがありますね


「恋」の原義は「乞う」
今ここにないものを求めること

本来の恋とは一方通行で切ないものなのです


愛しい人への恋しさで胸がいっぱいで痛い

相手も同じくらい自分のことを想ってくれて
逢えたらいいのだけれど、
もしそうなら「乞う」ことはない


辛い恋をしているがゆえに、
今にも消えてしまいそうな思いをしているのですね


こんな歌を女性から贈られたら
あまりにいじらしくて
今すぐにでもその涙をぬぐって
抱きしめたくなるのではないでしょうか


恋涙を詩的にたとえた美しい歌です

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