かやつばめ

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最近の記事

「深夜の地下室」で登場人物が「告白する」、「ココア」

2011.04.05 Tuesday 俺の仕事は自分で言うのもなんだけど、売れっ子のミュージシャンだ。 華やかな世界に見えるけれど、テレビに見えない部分で地味な努力をしている からこそ、今の自分がある。 「――っくそ、ムカツク」 いつも曲を作る時に使用しているレコーディング室で俺は悪態を吐く。 ここは場所が地下なのもあって、人目に付きにくいのでお気に入りの場所だった。 「なんだ、珍しく怒って。スランプ?」 休憩で外に出ていたプロデューサーが首を傾げる。 「違う!さ

    • 「昼の神社」で登場人物が「約束する」、「メール」

      2011.04.02 Saturday 「変わってないなあ……」 この街を離れて一年が経つ。 それくらいの年月でこの神社が変わるわけがないのに、 久しぶり過ぎてこんな言葉しか出てこない。 本堂も、その横にある色の褪せた絵馬をかける場所も 自分が最後に訪れた状態のまま。 「おっと、忘れちゃいけないよな」 つい絵馬の方に足が向きそうになったけれど、 先に神様にお参りをするのが礼儀だろう。 チャリン、と小意気な音を立てて消える賽銭を見てから ゆっくりと目を閉じると、ポケット

      • 「朝の階段」で登場人物が「開く」、「コーヒー」

        2011.03.31 Thursday 「うわあああ……マジかよ」 エレベーターホールの横に貼られたA4サイズの紙を見て 俺は呆然とする。 早朝点検のため、9時まで乗れないらしい。 せっかく早朝出勤したというのに、ツイてない。 「もうちょっと早く連絡してくれよな……」 きっと貼りだしたのは昨日の夕方だろう。 整備会社に恨み事を呟きながら、非常階段への重いドアを開き 自分の部署のある15階まで昇る事にする。 いつもは眺めが良いなと思った場所でも、この時だけは恨めしい。

        • 「深夜の畳の上」で登場人物が「耽る」、「ネットワーク」

          2011.03.28 Monday 目の前に広がるのは大きな鳥居をくぐった温泉街の様な街。 コントローラーを操って、中心にある長い階段を一気に駆け抜けて のれんをくぐった先が目的地だ。 『よう、今日はずいぶんと遅いんだな。 もう飽きて来ないかと思ったよ』 残念を表す汗のマークが見え、俺は慌ててキーボードを操り すぐさま返事を返す。 『ごめん、ほんとごめん! 仕事が忙しくてさ……』 『そっか、俺に飽きた訳じゃないんだな。良かった』 『飽きる訳ないじゃん! お前がいな

        「深夜の地下室」で登場人物が「告白する」、「ココア」

          「深夜の駅」で登場人物が「幸福になる」、「アルコール」

          2011.03.23 Wednesday 「僕は幸せだなあ……」 「そうですか、俺は不幸です」 歌うように呟いた上司に淡々とした声で返す。 「酷いなあ、カッコイイ僕と二人きりなのに」 「はいはい、主任はカッコイイですよ」 酒で酔っ払っている男の戯言なんてまともに聞いていられない。 適当にあしらうと、歳に似合わず子供の様に口を尖らせて拗ねた顔をする。 「課の女の子たちは、僕と二人になりたくて色々頑張ってるのに 君はこうやって僕と二人きりになれて嬉しくないのかい?」

          「深夜の駅」で登場人物が「幸福になる」、「アルコール」

          「朝の映画館」で登場人物が「髪を撫でる」、「手袋」

          2011.03.19 Saturday 映画館でバイトをする俺には、気になるお客さんがいる。 いつも仕立ての良さそうなスーツを着て、ストイックな感じのする 男のお客さん。 ある日、彼が手袋を落としたのを拾ったのがきっかけで 顔なじみになる事が出来た。 新作の映画が封切りになる日のレイトショーが、彼と会えるチャンスの日だ。 なのに、今回は現れなかった。 ――いつ来るんだろう。 そう思って、すでに2週間。 小さなため息をつきながら、朝一番の上映を観るお客さんたちを 誘導する

          「朝の映画館」で登場人物が「髪を撫でる」、「手袋」

          「朝のベランダ」で登場人物が「つよがる」、「傘」

          2011.03.18 Friday 「おー良い天気」 感嘆する声で目が醒める。 だるい身体を起こして、声のする方へと歩いて行くと彼が ベランダで洗濯物を干しているのが見えた。 「俺も手伝う……」 ノロノロとした動作で手伝おうとすると、手から奪われてしまう。 「無理すんなよ」 「だいじょーぶだって」 強がるような言葉を言うと、顔が近付いてきて 耳元で囁かれる。 「……身体、辛いんだろ?」 「っ!」 さらりと恥ずかしいことを平然と言う彼を少し恨めしく思いながら

          「朝のベランダ」で登場人物が「つよがる」、「傘」

          「夕方のプラネタリウム」で登場人物が「浮気する」、 「制服」

          2011.03.17 Thursday 彼が、楽しそうに制服の女の子を連れて歩いている。 浮かんでいる笑顔は、俺には向けられない類のもの。 この先にあるのは、プラネタリウム。 夕方のロマンチックな時間帯を選ぶなんて、本命の何者でもない。 「浮気、かあ……」 いや、この場合は俺が浮気相手なのか? なんだか良く分からない感情がぐるぐると頭の中を回り、 無性に悲しくなった。 ――俺も、プラネタリウムでも見て帰ろうか。 自虐行為と思いながらも、星空の看板の方へ まるで吸い込

          「夕方のプラネタリウム」で登場人物が「浮気する」、 「制服」

          「深夜の遊園地」で登場人物が「幸福になる」、「マフラー」

          2011.03.16 Wednesday 「深夜の遊園地でさ、光るメリーゴーランドをみたら 幸せになれるってジンクス、知ってる?」 うさぎの着ぐるみの頭だけを外した状態で、 彼は目をキラキラと輝かせて俺に話してくる。 「夜に明りついてるわけないだろ?」 「そこでお前の出番だ!整備士のお前だったら、動かせるだろ?」 余りにも無茶苦茶なお願いにため息を吐く。 これは実行しないとするまで言われ続けそうだ。 「分かったよ……でも、まだ寒いんだからちゃんとマフラーしてこいよ

          「深夜の遊園地」で登場人物が「幸福になる」、「マフラー」