あの得も言えぬ快感

旅をしようと思った理由は、自分でも言語化できていません。
それでも、「頭に直撃するような強い刺激」を外に求めていたというのは私を異国へ赴かせる最大の原動力になっていたのかもしれません。


自分の心が飛んで行って、放心状態で体は動かず、意識があるのかもわからず、ただこの一瞬がずっと続いたらどんなに幸せかと思うような体験は、多くの人の心にしまい込まれていると思います。きっと大人になってもずっと私はこの経験を求め続けるんだという気がします。
わたしの最初の経験は、バレーボールでした。

四チームのリーグ戦で上位二チームがと大会に進む、中学時代のある一戦。
人数の少ない私たちは、中三全員フル出場で勝ち進んでいきました。

最終戦、格上の相手に対して五分に持ち込み、最終セットのデュースでサーブが回ってきました。

取ればと大会決定のチャンスに、私の手は制御不能でした。ボールは何度触っても雲のようにつかみどころがなく、視線は定まりません。どうにか落ち着こうにも相手や見方や監督を見ていては心がざわつくだけです。

でもここで私は気づきました。
禿げた審判が居るじゃないかと。

ボールのように丸くぬるっとした笑える代物が、コートの一番高いところに君臨していたんです。笛を待ちながら、禿げを見ます。

いける。
そう思ってフォーム通り打ったサーブは、少しだけトスが低くなりました。まずい失敗する終わる負ける死ぬ。
手首に当たったボールは不思議な回転を続けて相手へ向かっていきます。

ああ終わった
十年後の同窓会でmあのサーブが無かったら勝てたという自虐を披露する自分が目に浮かびます。

ネットに直撃したボールは、あの禿げた頭のようにそのままぬるっと相手コートへもぐりこみ、選手と選手の間に吸い込まれていきます。



相手はボールに飛びついて、ネットを超えて私たちのコートに突っ込んできます。それとともにボールは重力の通りにコートに落ちました。



私たちの負けを予想していたギャラリーからはわっと歓声が上がり、チームメイトはしょうもないサーブをこれでもかとほめてくれます。
わたしは何が何だかわからなくて、コートにも入らず立ち尽くしていました。

部長が駆け寄ってきて

「なにやってんだよ!勝ったんだぞ?」と背中を叩きます。


その一言を言われるまでのその一瞬の高揚感を、どうしてもまた味わいたいと思ってしまうのです。



読んでくれてありがとうございました。
またどこかで。



日々是口実


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