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【法務】(便乗)法務担当者の私が「若いの」と仕事をする際に考えていること

Twitterでフォローしているちくわさん(@gigakame)の上の記事を見て共感するところがあり、世の中の法務担当者「若手」の方々の目に触れるのであれば、ぜひおっさんの戯言でも見ていただければと思い、したためてみました。ご笑納ください。

1.自分が「若いの」だったときのこと

自分は入社3ヶ月で前任者の退職とともに異動したので、実際の担当業務において「教わった」ということは無いに等しいですが、上司が財務畑の人間で勘が鋭かったので、モノの見方や着眼点なんかは、この時の上司の影響が大きいような気がします。自分にはノウハウが全くないし、引継書らしきものを見ても「担当者にヒアリングをして云々」などは書いてなかったので、どうしても契約書チェックは形式優先になってしまいました。しかしかなり交渉が難航し、メールだけのやり取りでは解決が困難になる場面や、中には「結論は法務が出せ」といった技術の部長さんがいたりもしたので、上司も同席の上どこを落としどころにするかを契約担当と相談するのですが、ここで話を聞いてみると、そもそも契約に書いてあることが本当にできるのか?みたいなものも出てきて、メールだけではいけないなと気づいたように思います。
 その後は、契約の意義、条文の意味を説明するなら民法商法の知識が必要だし、製造業だったのでPL法の知識も必要だし、外注加工してたので下請法も、IR株式担当が定年退職で業務が増え、金融商品取引法、証券取引所規則、輸出管理と知財担当が異動してきたので特許法・商標法・著作権法とちょこっと外為法、そうこうしてたら東日本大震災が起こっちゃったのでBCP、個人情報保護法が改正され、労働安全衛生法が改正され、会社法が改正され、コーポレートガバナンスコードができ…と着実にやらねばならないことが増え続けたので、わからないけどやるしかない→作業しながら勉強して作業見直し→マニュアル化といったことをひたすら続けていきました。組織のことやマネジメントは、正直↑の上司含め、全員を「反面教師」にすることで培っていったと言っても過言ではないと思います。「自分はこうならないようにしよう」というのと、遅れて入社してくる後輩や未来の部下が、自分のような環境に置かれないようにと思いながら、法律学習の合間にちらほら本を読みつつ、他の役員や管理職の人らを見てマネジメントの在り方なんかを自分なりに構築していった感じです。

2.今の「若いの」に対する接し方

自分が会社に対する愛着や感謝とかが全然ないので、いつ辞めてもいいと思っているし、若手も辞めたければ辞めれば良い(1日で出社しなくなるとかは論外ですが)、自分は止めないし、引継もできる限り協力するといったことを、そのまま伝えています。加えて、自分が転職活動しても途中で挫折してきた(主に株主総会時期に入ってしまうため)過去が何度もあり、結局ズルズル居残ってしまったので、「自分みたいにはなるな」とも言ってきました。転職した今も同じようなことを言っています。

①山本五十六

こんな名セリフがありますね。

やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動かじ。
話し合い、耳を傾け、承認し、任せてやらねば、人は育たず。
やっている、姿を感謝で見守って、信頼せねば、人は実らず。

太平洋戦争時の連合艦隊司令長官 山本五十六の言葉

自分が、ろくに教わることなく、実務から入ってなんとかやりくりしてきた人間なので、これからの人たちには、なるべく「困らないで済む」準備はしたい。と思いつつも、「苦労せず得たものは血肉にならない」とも思っているので、「(まず)やってみせ」は必要と思っています。
何も道筋無くやらせても意味はないので、その前提にはマニュアルや、担当してもらう仕事の意味などは話をします。

1年目は、五十六さんの1行目を意識しています。1年間は付きっ切りで、契約書のダブルチェックもするし、相談も優先して受けます(なので「話し合い、耳を傾け、承認し」までが1年目かな?)。なので残業が45時間を超えるのは当たり前で、6回以内に抑えることなどでき(法規制)。
2年目以降は「任せ」ます。レビューは相談を受けたときはやりますが、基本的に全部1人で完結してもらいます。そのうえで、余裕がありそうなら抱えてる仕事の1~2つを落とすし、全社的な動きには一緒に同席してもらったりして、仕事の幅を広げてもらう種まきをします。
3年目は自分で考えを持って進めることができ、会社への疑問、仕事への疑問があれば指摘と改善案を出してもらい、いい提案は最終決裁者にまで説明をしてもらいます(自分も助け船は出しますが)。次のリーダーになってもらうための種まきです。

別に五十六さんの言葉を見て考え付いたことではないですが、自分が置かれた環境に他人を置くのはなるべく避けたい、でも言われた通りにしか動けない人にはなってほしくない(その人の面倒を自分が見たくない)、など私利私欲も混ぜこぜで考え着いた先が、こんな結果でした。

②経験を語る(押し付けない)

部下や後輩が相談してくるときは、判断に迷いがあるか、自分が賛同しているということを、決裁者の説得材料に使いたいといった意図があります。
前者の場合は、必ず「こうすればいい」といった提案はせず、「自分は過去同じような場面で、こういう判断をした。」という経験を語るようにしています。こうすることで、少なくとも過去の実績があるわけなので、本人は間違ってはいないと安心できるでしょう。一方で当時足りなかったなと思ったこともしっかり伝えて「よりよい方向を自分で考えて提案してほしい」と伝えます。コナン君は真実はいつも1つとか言ってますが、それは結果論です。答えは1つではなく、たくさんあり、その中から1つを選ぶだけです。

残念ながら大概の人は楽な方(自分の経験)を基にして進めようとしますが、ちゃんと自力で提案する人も中にはおり、そういう人は自分以外の人らにもちゃんと評価されてるので、自分のスタンスはこのままでいいと思っています。
後者は手続的な話なので、自分がピエロとして喜んで踊るだけです。割愛。

③「目的」を先に話す

文字通りですが、どんな仕事にも意味・意義があります。前の会社でも今でもそうですが、引き継いだときから「この仕事が何のための仕事なのか」を考えない、「私の仕事は〇〇という作業を期限を守って確実にミスなく行うことです」という人が多すぎます。しかし、全ての仕事には意味があり、企業経営全体の一部であることは間違いありません。どの部分を担当しているのかを知らなければ、会社・組織の利益につながりません。
そのため、必ず部下やメンバーに仕事を任せるときは、任せる理由、その仕事の意義を説明するようにしています。説明が下手くそで(あ、これ絶対伝わってないわ…)と思うこともしばしばありますが、それはもう気にしない。別の言葉でとか、チャットで補足とか、別会議のついでで補足とか、進捗確認とあわせて補足とか、とにかく繰り返し伝えるようにしています。

前の会社で初めての部下が4年目で辞めると言ったとき、自分の言ってきたことがほとんど伝わってなかったということも面と向かって言われたので、正直辛かったですが、彼は彼で我が強くコントロール不可能だったので仕方なかったんやと思って、仕切り直し同じやり方で育成をしています。2人目3人目と退職者が出てきて「けんおじの考えには正直ついていけない…」とか言われてしまうのなら、さすがに自分に問題があるのだろうと認める覚悟はしていますが、まだ大丈夫そうです。

3.さいごに

自分は目立った資格は持っていませんが、15年以上法務担当者をしています。今後、企業法務として生きていくためには、①法律の専門家である弁護士と競っていかなければならない、②リーガルテックが急速に進化を続けており、弁護士であっても優位性が保てなくなるかもしれない、③喫緊ではChat GPTなるものまで出てきた、④社会が進化すれば法律も変わる、しかし法律を変えるには時間がかかるのでいろいろなガイドラインが出る、法的規制はないのに守らないと文句を言われる、という何とも恐ろしい時代になってきました。自分は今年で40歳になりますが、お先真っ暗で生きた心地がしません。

これからの時代を担っていく方々に、ぜひとも勉強していただきたいなと思うことが1つあります。それは「コーポレートガバナンス・コード(CGC)」です。これは、証券取引所が定める上場会社向けのルールですが、全83個の細かいルールについて「遵守しなさい、しないならその理由を説明しなさい」という考え方で遵守状況を開示させるものになります。自分は、遵守はともかく「理由を説明しなさい」という点が、別にCGCに限った話ではなく、すべての仕事に通じるものだと考えています。例えば会社には様々な組織があり、担当業務を組織ごとに割り振っています。しかし組織規程には、各組織が担う業務内容は定められていても、その組織がなぜその機能を果たすべきなのかまで書いてあるのは稀だと思います(と言っても、前と今の会社の規程の事しかわかりませんが)。個々の業務についても同様で、担当者に業務を引き継ぐ際などは、この業務の意義から説明する必要があると思っています(上記2③のとおり)。
今すぐ身になる知識やスキルを求めることも必要ですが、長年働き続けていくと、だんだんスキルより人間性を問われる場面が多くなっていきます。そのため、早いうちからCGCの概念には触れておいてほしいなという願いをこめて、締めさせていただきます。

以上

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