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なぜ、CAを辞めたのか?〜後編〜


「自然体でいられないことが息苦しく感じた。」

「自分の英語力の無さを痛感して、海外に住んで生きた英語を学びたいと思った。」

「日本のおもてなしだけじゃなく海外のフレンドリーなサービスを知りたいと思った。」

「会社に守られずに自分の足で人生を歩んでみたかった。」

「CAじゃない自分を見つけたかった。」

色々と理由はある。

前編で自分にとっての自然体でいることの大切さについて触れたので、ここではそれ以外の理由について。

「自分の英語力の無さを痛感して、海外に住んで生きた英語を学びたいと思った。」

私は人と話すことが好きだ。

機内では日本人のお客様にも海外のお客様にもよく話しかけていた。

あらゆる土地にいくのだから情報収集も仕事の一部だと感じていたし、いろんなお話を聞くのが単純に好きだった。

自分よりもお客様の方がその土地について詳しい時はいろんなことを教えてもらえるし、その土地に初めて行くお客様にはおすすめの場所を伝えることで旅の楽しみを増やすお手伝いが出来る。

海外のお客様には旅の目的や感想、機内サービスの満足度の確認・改善点をお伺いすることが多かったが、日本についてどう感じたのか、日本のサービスについてどう思ったかなど、海外の人から見て日本はどんな国なのかという個人的に気になることを聞くこともよくあった。

しかし海外のお客様に話しかけても、相手が物凄く早く喋り始めると全然ついていけず日本人同士のように深く話せないことがよくあった。なんとなく理解してリアクション芸人のようにオーバーに反応してその場を乗り切ることも多かった。

国際線のCAなのにこの英語力。私はそんな自分が恥ずかしかった。

実は国内線のフライトで緊急着陸を経験したことがある。

毎日飛行機に乗っていても、これは本当に稀すぎる出来事なので緊急着陸の経験を実際にしたことがあるCAはほとんどいないだろう。

緊急着陸といっても、機内で火災が起きていた訳でも無く、飛行機に不具合が見つかったので着陸の優先権を得るための緊急着陸だった。

飛行機に不具合があると分かったのはドリンクサービスも機内販売も終了していた着陸前の出来事で、CAは乗客全員と一度は会話していたので全員が日本人であることを確認していた。

たとえ日本人しか乗っていないということが分かっていても、万が一日本人に見える外国人旅客や簡単な日本語だけ話せる外国人旅客が紛れている可能性がある為、イレギュラーな事が起きた時は英語のアナウンスは必須だ。

パイロットが不具合に関してアナウンスした内容が日本語のみだった場合、それを瞬時に英語に翻訳し、CAが英語のアナウンスを入れることが規則として決められている。

その時機長から伝えられたのは「飛行機に搭載しているオイルが漏れている可能性があることを示す警告灯が点灯したから上空で旋回しながら確認をする。」とのことだった。

機内ではお客様の様子を見つつ、不具合が起きた時の対応を速やかに行っていた。そうした不具合が起きた場合、CAはお客様に不安を感じさせないように工夫しながら日本語と英語で機内アナウンスを入れなければならない。

CAは機内アナウンスのマニュアルを持っており、大体の出来事はそのマニュアルに書いてあることの中で対応出来る。

しかしその時起きた状況はアナウンスのマニュアル内に無いようなことがいくつかあり、客室の責任者はそれをも自身の英語力でカバーして日本語と同レベルのクオリティで英語で旅客に伝えなければならなかった。

機内ではパイロットが丁寧で分かりやすいアナウンスを頻繁に入れてくれていたお陰もあり、特にクレームもないまま旅客は落ち着いた様子で目的地に着陸した。

しかし着陸後、飛行機の周りに消防車や緊急用車両が多く集まっているのを見て、乗客は一気に不安そうな様子になっていた。オイル漏れの可能性がある為、火事に繋がる危険性もあったのだ。

私は着陸してからも体調不良になった旅客がいないかどうか、煙やガゾリンの異臭がしていないか等、注意深く周りを監視し続けていた。

幸い火事が起きることもなく、旅客も乗員も全員無事な状態で飛行機を降りることが出来た。

旅客降機時にあるお客様からこんな言葉をかけられた。

「CAさんもきっと怖かったよね。本当にお疲れ様。ありがとう。」

その言葉を聞いた瞬間、緊張の糸が切れて思わず泣きそうになったが堪えて笑顔で見送った。


CAだって人間だ。私たちはロボットじゃない。


CAという仕事は世間一般から見るとサービス要員のように思われることが多いが、何よりも第一に保安要員である。新入訓練の時も保安訓練が8割を占め、サービスの訓練は2割しかなかった。

安心・安全運航に努めることが一番の役割。

CAは常にお客様に安心感と頼りがいのある存在でいなければならない。

もし不安を感じたとしても、それを表情には出してはいけない。

声のトーンで心の状態を悟られてはいけない。

それが仕事だったし、あの世界で生きていく上では必要だった。

「私は大丈夫!もっとしっかりしなきゃ!」

繰り返し自分にそう言い聞かせるうちに、いつの間にか心の感情を無視して、平気そうな素振りを見せることが仕事でもプライベートでも自然になっていた。

そんなドキドキハラハラな出来事が起きても、また次の日からは何事もなかったかのように仕事をする。笑顔でお客様をお出迎えし、テキパキ動いて、お客様に合わせたサービスを探求して、その時のベストを尽くす。

客室乗務員という職業は本当にタフな仕事だと思う。

この稀な出来事が起きたのは私が国内線のチーフパーサーの資格を取るための訓練を受ける1ヶ月前のことだった。

私はそのフライトを終えてからしみじみと考え込んでいた。

「今の私のこの英語力でチーフパーサーの資格を取って本当にいいのかな。無責任すぎる気がする…。こんな低いレベルのままの自分じゃダメだ。アナウンスマニュアルにある定型文を覚えるだけじゃなくて、自分の言葉で英語でも分かりやすく簡潔に伝えられるようにならないと。こんな状態でチーフパーサーの資格を取ることは出来ない。」

考えすぎかもしれないけど、本気でそう思った。

働きながら英語を勉強してそのレベルまで辿り着けるのだろうか、、。

会社を休んで海外留学すべきか、会社を辞めて海外で働くのか、いろんな考えが頭の中を巡り続けた。

私はそのことを管理職に相談した。

その管理職の方はとても理解が深く、こう言ってくれた。

「私が管理職の立場でこんなことを言うと怒られるかもしれないけど…。女性って何かひとつを選ばないといけないって言われることが多いけど、私はもっと自由にわがままに生きていいと思ってるの。仕事か、結婚か、出産か、自分のやりたいことか、どれか一つだけとは言わず全部選んでいいと思ってる。私はそれでいいと思ってるし、あなたにもそうやって自由に貪欲に生きてもらいたい。英語を勉強してまたこの会社に戻ってきてくれたら私はもちろん嬉しいし、その時に行きたい会社をまた受けたらいいじゃない。スキルアップして成長した自分でやりたいことをしたらいい。」

全ての言葉が、深く胸に響いた。

素敵な上司に巡り会えたことを幸せに感じた。

「日本のおもてなしだけじゃなく海外のフレンドリーなサービスを知りたいと思った。」

海外のお客様に日本のサービスについてどう思うか尋ねた時、大半の方が「素晴らしい。」「日本人は丁寧で親切だ。」と言っていた。

しかし意見の中には「丁寧すぎて壁を感じる。」「もっとフレンドリーに接して欲しい。」「みんな同じ感じでロボットみたい。」と言われることもあった。

会社の中でも海外の旅客に対してフレンドリーさが足りないことが課題として挙がっていた。

その原因として日本人の英語力が低いこと日本独自のおもてなしが丁寧さを重じているため日本人がフレンドリーな接客をすること自体に慣れていないことが挙げられていた。

日本人旅客に対しては細やかな要望も引き出してスムーズに応えることができるが、英語力が低ければ聞き間違いや誤認識のリスクがあるため一歩踏み込んだサービスがしづらい。フレンドリーな接客といってもお客様に対してどこまで打ち解けて良いのかよく分からない。

会社内で行われたディスカッションではそんな声が挙がっていた。

私はその時から海外の接客について興味が湧いていた。「海外に暮らしてどんな接客があって、何が好まれているのか味わってみたい!」そう思うようになっていた。

そして、海外に暮らしてから実際にフレンドリーな接客を体感することが出来た。

この話はまた別の記事に。

「会社に守られずに自分の足で人生を歩んでみたかった。」

「CAじゃない自分を見つけたかった。」

CA時代、有り難いことに会社宛にお客様からお褒めの手紙やメールをよく頂いていた。

社長から直々に社内メールが来てお褒めの言葉を頂いたこともあった。(これには本当に驚いた。)

社長にから送られてきたメールには「お客様のお気持ちを汲んだ対応に感激しました。マニュアル通りではない、お客様に感謝される品質のお手本です。ありがとうございます。」と書かれていた。

その言葉を頂いた時、CAという職業を通して自分がやりたかったことが実現出来ていたことを実感した。

社内の規則は沢山あるけれど、その中でもマニュアル通りではなく相手の様子を見て、相手に合わせたおもてなしをすること。そこに人の温かみが感じられるような工夫をすること。

地道にしてきたことが認められたような気がして、やり切ったような清々しい気持ちになった。

何より大企業の社長が一CAの行動を把握して、わざわざメールまで送って下さったということに心から感動した。大学の頃からこの会社に憧れて、入社することが出来て本当に良かったと思った。

それは私が退職する月のことだったので社長に退職する旨をお伝えすると、本当に残念でなりません。と言って頂いたが、私の中ではもう悔いはなかった。

そして、私は大好きな仕事を辞めた。


今生きてる世界だけが全てじゃない。

もっといろんな世界を見てみたい。

いろんな自分を知りたい。

外から日本を見てみたい。


そして、

私は素敵なお母さんになりたい。


自分の知ってる世界が狭ければ、

本当にそれがいいことなのか悪いことなのか、

正しいとか正しくないとか判断できるはずがない。

もしも将来子供に何かの理由を聞かれたときに、

「みんなそうしてるから。」「それが常識だから。」と

全く答えになっていないことは言いたくない。


私が良いと思ってやっていることが、

地球の裏側では許されないことかもしれない。

私が悪いと思い込んでることが、

どこかの国では推奨されることかもしれない。

もしかしたら、私たちが決め付けているだけで、

この世には善悪なんて存在しないのかもしれない。

きっと世界は信じられないほど広い。


私はそれを知りたい。

自分の目で見てみたい。


だから私は、

ずっとなりたかった憧れの職業を、

一生懸命努力して受かった会社を、

辞めました。



またまた長すぎる文章を最後まで読んで下さり、

ありがとうございます:)

次は何について書こっかな〜

では、また次回!

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