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もはや人員配置基準は破綻しつつある

■ 介護現場の人材不足


昨年から施設職員の退職が続いている。退職自体は毎年のようにある話なので問題視してはいないが、昨年はそれぞれ違う理由で退職が連続したことから人員補充に追われている。

人員補充と言えば、求人募集をしても応募が来なくなっている実感はある。

介護から他業種へ流出しているという報道も目にするが、介護の仕事を探すものの、給料や業務形態などに高い条件を求めすぎて、いつまでも応募しない人もいる様子が伺える。

このような状況なので、高い費用をかけることも止むを得ないと人材紹介会社に相談するも、年末年始に求職活動をする人は少ない。
そのため、法人全体で大きな人事異動をしたり、一時的に利用者の受け入れを抑えるといった方針も視野に入れなくてはいけないかもしれない。


■ 転職先も介護業界ならばOKと見るべし?


――― なんだか愚痴っぽい話で申し訳ない。別に大変自慢をしたいわけではない。人事改編や事業規模の見直しなどするのは経営にとってある話だし、現場の見えないところで運営方針を検討するのも自分の役割である。

そもそも人手不足なんてものは、どこの業界でも同じである。

介護業界から他業種へ流出するのは問題ではあるが、この少子高齢化の時代において、日本国内の全ての仕事を限られた日本人労働者で何とか回そうとうするならば、人手不足になるのは当然と言えば当然だ。

よく介護業界では「人材の取り合い」と言われているが、見方を変えれば、日本という介護サービス事業所に所属している介護従事者たちが職場を異動しているだけの話とも言える。
国内の介護ニーズ全体で考えれば、働く場所が変わっただけで介護の担い手が介護業界に残っていると考えれば、まだ良しと考えるべきかもしれない。


■ 人員配置基準という形骸化しつつあるルール


超高齢化社会に向けて介護従事者が明らかに不足している事態において、国は業務効率化としてICTの活用を推奨したり、賃金改善として交付金や加算制度を出しているものの、決定的なカンフル剤とはなっていない。

国の啓発や支援はありがたいものの、やはり各介護サービス事業所が個々に自衛手段や改善策を講じるしかないと思う。

それは「今いる介護職員で、現状以上の介護サービス事業を展開するためにはどうすれば良いか?」を考えることである。
ビジネス書みたいな言い回しをすると「限られた人材で業務最適化を図る」という話である。

そこで具体的な話として業務効率化やICT導入とやらの話になるわけだが、このような整備を進める中で1つ法的な問題が出てくる。

それは「人員配置基準」というものだ。

医療福祉分野においては事業形態や規模によって「常勤換算2.5人」とか「利用者:介護者=3:1」といった人員配置のルールがある。社会的弱者を支えるために、安全で質の高い医療福祉サービスを提供するには一定の人員が必要という意図があるのだろう。
しかし、見方を変えれば「常に〇人以上の職員を配置して下さいね。そうでないと指摘対象となりますよ」という話である。

他業種でもこの手の人員要件があるのかは分からないが、介護業界は人手不足という明確な事態が分かっているのに、未だに人員配置基準という縛りを設けた上で業務改善を推奨しているのは矛盾していると思う。

医療福祉ともに人員配置のルールは緩和されているものの、根本的な解決にはなっていない。もちろん、もともとの意図として人員配置基準はあった方が良いと思う。しかし、人手不足という状況においては形骸化しつつあるルールであると言わざるを得ない。


■ どこも人員配置基準どころではない


人員配置基準が形骸化しつつある、というのは大袈裟な言い方と思われるかもしれない。しかし、色々な話を聞くと決して大袈裟ではない。

例えば、他事業所の介護職員から「本当は私がコレをやらないほうが良いのですが、担当していた者が退職したので仕方なく・・・」と、遠まわしに大目に見てほしいと根回しされることもある。

また、他法人の運営者と話を交わしていると「いやぁ、人員基準どおりって難しいですよね」と本音が出る。そもそも、介護の管理者や経営者らが常勤換算といった人員配置基準にうといことも珍しくない。

ここ数年の間に採用した職員の話を聞いても「事務員や相談員として雇われたのに、いつの間にか介助や見守りに駆り出されていた」などと、どこもかしくも介護現場は混沌としている。


■ もはや人員配置基準は破綻しつつある


誤解のないようにお伝えすると「人員配置基準なんて違反してもいい」「どこでもグレーゾーンで運営しているから大丈夫」と言いたいわけではない。
安全かつ質の高い介護を提供するためには人員は必要であるし、人手不足を理由に違反が常態化していたとしても、それは運営基準(旧: 実地指導)などの定期調査で露見して指導を受けるだけだ。

しかし、いくら法令で定めれられているとは言え、日本国内の限られた労働者数から見て、現実問題として人員配置基準を成立させること自体が困難であると言える。

介護現場は「とりあえず回ればいい」と法令や労働基準なんて気にしている余裕はなく、それに対して指摘すれば「人がいないんだから仕方ないじゃない! すぐ動ける人を入れて下さいよ!!」と色々な意味で無理難題を言う。

もはや人員配置基準は破綻しつつある。

そのうち運営指導の調査員が「この職員の兼務はダメですよ」なんて指導をしようものなら、上記のような不満が噴出する可能性もある。それでも法令は守らなければいけないので解決策は人員補充しかないが、やはり人手不足という根本的な問題から対応しきれない。となると、あとは事業閉鎖だ。

「人員配置基準なんて廃止しろ」とまでは言わない。また、人員に関する法令をもっと緩和しろとも言えない。下手にそれをやってしまうと、利用者たる高齢者の尊厳保持どころか、事故や虐待を誘発するリスクもある。

ここでは長くなるので割愛するが、人員配置基準というものの意義を、実状や時代に合わせるような見直しは必要ではないだろうか?


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方も、感謝。

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