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高齢者に「何かしてあげなきゃ」と焦ることはない

■ 「できること」「できないこと」の見極め


高齢者介護では、自立支援をもとに「できること」「できないこと」を見極めて支援をすることが基本となる。

しかし、過度に「これは本人ができるから放っておこう」とか「あれはできないから即座に介助しなければ」と思うのも違う。

本人ができないと思い込んでいることもを、声掛けによる促しや少し手を貸すことで「できること」と気づかせることも介護である。

反対に、できないことを本人がやろうとすることもある。そこに対して介護者が防波堤のように立ちはだかるのではなく、一緒に行動することで本人の尊厳を満たすことも必要だ。

何が言いたいのかと言えば、本人の「できること」「できないこと」を二極化して、介護者の対応範囲を決め打ちしないほうが良いという話だ。


■ 「何かしてあげなきゃ」と焦るスタッフ


これと似た話で、介護者の中には、高齢者に対して「何かしてあげなきゃ」と義務感なのか使命感なのか分からない思いを抱いている人がいる。

これは介護施設のスタッフに伺える。

介護の仕事に就いた新人スタッフにおいては「何かしてあげなきゃ」から「何をしてあげればいのか分からない」という悩みに発展する。

また、ベテランと呼んでいい介護スタッフの中にも「何かしてあげなきゃ」というように、常にせかせか動いている人もいる。そうして「ああ、介護現場は大変だ」「人手がもっとあれば」と不満めいた発言をすることもある。


■ 利用者はどう思っているのか?


――― さて、「何かしてあげなきゃ」の先にいる利用者(高齢者)は、介護スタッフに「何かして欲しい」と思っているのだろうか?

それは本人たちにしか分からない。

介護スタッフやヘルパーに何かしてもらえることで、承認欲求を満たせる利用者もいるかもしれない。

特に何とも思っていない利用者もいるかもしれない。

スタッフの対応はありがたいと思いつつも「少し落ち着いてほしいな」と思っているかもしれない。

介護を受けている立場としては「いつもありがとうね」と言うしかないため、この手の本音を聞き出すには時間と信頼関係を要するだろう。

その点も踏まえて個人的な考えを述べるならば、「何かしてあげなきゃ」という姿勢は大切であると思う一方で、過剰な「何かしてあげなきゃ」は利用者目線ではなく介護者の押し付けではないかと思ってもいる。


■ 押し付けや決めつけになっていないか?


「何かしてあげなきゃ」と常に介護現場を動き回っている人を見ていると、まるで利用者は何もできないかのように関わっているようだ。

それは過剰な「弱者扱い」でもあり、思いやりよりも失礼さが伺える。

また、「何かしてあげなきゃ」は誰目線かと言うと、利用者目線が起点ではなくて「自分はこうしてあげたい」という介護者目線になっていることも気になる。

リビングでボーっと座っている利用者に対して「塗り絵でもする?」「暇ならお手伝いしてもらえない?」と提案するのは良いが、たまに「この利用者にはこう対応すればいい」というテンプレートで接していることもある。

一見すると利用者に気を遣っているようであるが、その介護スタッフとしては「何かしてあげなきゃ」の裏に「暇なのは良くない。だから何かやることを与えなければ」という勝手な価値観もあるのではないか?


■ 利用者のニーズはどんどん変わる


上記でもお伝えしたが、介護スタッフの「何かしてあげなきゃ」からのアプローチに対して、それを受けた利用者の本心は分からない。

しかし、黙っているのが好きな人もいることを忘れてはいけない。「高齢者はこういうのが好きでしょ」と杓子定規に考えることは危険だ。

昨今では多様性という言葉があるように、新規サービスを提供することになる利用者や介護施設への入居者も多様化している。

それは、介護を要する前の自宅で住んでいた時期の過ごしが多様化しているからだ。

そのうち介護施設に対して「テレビはいらないが、無料Wi-fi はないのか」と言う方が増えるかもしれない。
介護スタッフが「何かしてあげなきゃ」と焦って声掛けしたところで「動画見ているので結構です」となるかもしれない。

もはや介護者の「何かしてあげなきゃ」は古くなってくだろう。

レクリエーションや社会的役割の提案よりも、介護スタッフに求められるのは無線LANやアカウントの設定になるかもしれない。

もしかしたら、オンラインゲームの相手をさせられるかもしれない。それはそれで面白いと思うだろう。


――― 本当に利用者目線になるならば、大切なことは「何かしてあげなきゃ」と焦るよりも、その場にいる利用者の居心地の良さである。

声掛けして特に反応がないからといって、次々と「じゃあ、これは?」「あれならできる?」と言われても不快にさせる恐れがある。

「何かしてあげなきゃ」という配慮は分かるが、少し熱量を下げて客観的に利用者の振る舞いを観察してみることをお勧めする。

また、利用者には身体介護や生活援助などの介護サービスを行う機会はあるのだから、そこでのやり取りで徐々に信頼関係を構築していくことが、回り道だけれど「何かしてあげなきゃ」と焦るよりも確実だ。

身勝手な「何かしてあげなきゃ」よりも、ゆっくりと相手の求めることを探ることに時間をかけてみてはいかがだろうか。

そうすれば、利用者だって「この場所だったらくつろげる」と思っていただき、そこから「何かやってみようかな」と思うようになるかもしれない。

結果を焦ってはいけない。じっくりやっていこう。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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