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介護従事者は、医師や看護師に過度にへりくだらなくていい

■ 介護の役割/医療の役割


高齢者介護の仕事は、高齢者の日常を肉体的または生活面で支援する。
自立支援のもとに、利用者の心身の状態を観察しながら「できること」は維持・向上して「できないこと」をお手伝いする。

そのためには認知症などの介護知識は必要だし、排泄介助や移乗介助などを円滑に進行するための介護技術を身につけることが有効になる。

医療知識もそれなりに必要だ。排泄や食事、服薬などの健康管理をもって介護を行うし、受診に同行するときにも医療従事者とやり取りするときにある程度は理解できたほうが良い。

――― しかし、どんなに頑張って医療知識を身につけたところで、結局は医療従事者の意見が優勢となる。これは介護が医療に劣っているという話ではなく、医療的な判断および対処は医療従事者に任せるのが適切だからだ。

いや、適切と言うのも違うか。そもそも介護という立場の者は、医療的な判断をすることも処置をすることもできない。これは倫理ではなく法律の話だ。

つまり、介護従事者が医者あるいは看護師と同等の医療スキルで身につけても、介護分野にいる限りは医療行為はできない。もしも「自分は医療スキルがあるので、利用者さんのために処置します!」として仮に利用者の肉体的危機を達したとしても、待ち受けているのは刑罰である。

もちろん、介護従事者が容認されている医療的処置もあるが、それはあくまで法律の範囲内であり、かつ書面などをもって医師の指示のもとに行われている証明が必要となる。

何だか面倒くさい話だと思うかもしれないが、単純に「介護には介護の役割がある」「医療には医療の役割がある」というだけの話だ。

社会は異なる役割があって成立している。それは医療福祉という範囲においては介護と医療という異なる役割が、それぞれ存在して成立していると思っていただくだけで良い。


■ それぞれの「できない」を補っているだけ


とはいえ、総合的なスキルや社会的な地位から見ると、介護よりも医療のほうが立場が上である認識になる。

この認識は仕方ないと思うし、誰もが感覚的に納得するだろう。いくら対外的には連携関係にあると言っても、医療のほうが何となく上であると思ってしまうのは否めない。

しかし、だからと言って医療と介護は主従関係ではない。

例えば、1人の高齢者に対して日常的に介護サービスを行い、定期受診や訪問看護などで健康状態を診るとする。

介護従事者はご本人に必要な介護サービスを行い、そしてご本人の状態を把握できる。しかし、状態異常時に何が起きているのかを把握できないし、上記のように基本的には医療的な判断も処置もできない。

だからこそ、介護は健康面において医療従事者に頼らざるを得ない。

一方、医師や看護師は状態異常や健康面について診察や検査を行い、ご本人の健康状態を判断し、処方箋を出したり必要に応じて処置を行う。しかし、介護従事者レベルで日常の様子を観測することはできないし、特に医師はご本人とのコミュニケーションも数分程度しかない。

だからこそ、医療は日常の様子を介護従事者に問いかけることになる。

つまり、介護も医療もお互いの「できない」を補い合うことで1人の高齢者の日常を支えているのだ。


■ 過度に医療にへりくだる介護者


しかし、どうしても社会や業界におけるヒエラルキーは生じてしまう。

その結果、介護従事者の中には、医師や看護師に対して過度にへりくだるような態度をとる人が出てしまう。「何もそこまで緊張しなくても」というほどに医師や看護師を気遣う介護従事者もいる。

もちろん医療従事者の中にも独特な雰囲気の方もいるし、態度が怖い感じの医師も少なくないので萎縮してしまう気持ちは理解できる。

それでも、介護従事者は医療商材を扱っている営業マンのように「先生(医師)の気分を害さないようにしなくては」とまではしなくて良いと思う。

介護サービスを通じて把握していることを伝えたり、お互いに共有している事項があれば事前に確認しておいて報告するだけで良い。

医療従事者から想定外のことを尋ねられても、狼狽えることをせず素直に「それは分からないです」と言えばいい。下手な回答をすると、間違った処方や処置になる恐れもあるため、無回答を貫くことも必要だ。

また、特に介護施設と医療が連携している場合、それは加算制度など(いわば売り上げ)に関する話にもつながることから、介護従事者が分からないと言ったところで「この介護施設とはもう連携しない!」なんて言われない。

そのため、落ち着いて「分からない」と伝えたら「その点については今後確認しておけばいいですか?」といった問いかけをしても良いだろう。
案外、医師も何となく聞いていることも少なくないので「え? あぁ別にそこまでしなくていいよ」となる場合もある。


――― 今までも現在も色々な医療従事者と関わってきたが、医療業界も独特であることから、色々なキャラクタの人たちがいる。

それに対していちいち戸惑ったり狼狽えているのと疲れてしまう。それは介護サービスを提供するうえで障害になりかねない。

医師も看護師も、それ以外の医療従事者も特殊なように見えるが、言ってしまえば同じ人間である。大地に足を踏みしめて生きている者同士だ。

単純に社会の認識として上下関係があるような”気がする”だけだ。

そこそこに気を遣って、気になることがあれば問いかけ、尋ねられたことには分かる範囲で答える。医師だって介護従事者からの問いかけに「いやぁ、分からないな」「検査もしてないから何とも言えん」と言うものだ。

だったら、介護側だって同じ反応をとってもいいはずだ(もちろん礼節をもって)。

そして思い出してほしい。

大切なのは、医療従事者の機嫌を損ねないことではない。
1人の高齢者の健康と生活を可能な限り支援することなのだと・・・。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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