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介護施設に入所後、連絡がつかないご家族は困る

■ 入所後に連絡がつかなくなるご家族


介護施設の運営における悩みの1つとして「入居者のご家族に連絡がつかない」というものがある。

自宅での生活が困難になった高齢者に対して、その子供や親族などのご家族、担当ケアマネージャーや地域支援機関が介護施設を探すことが多い。
そしてようやく入所先が決まると、大抵のご家族は入所当日までの契約手続きや荷物の搬送までは関わっていただける。

入所後は、ご本人の状況を気にして面会にお越しになったり、施設に「ご迷惑をかけてませんか」「必要な物があったら言って下さい」とご配慮の電話をいただくご家族も少なくない。

一方、入所した途端に連絡がつなかくなるご家族がいる。
全く連絡がつかないまでも、何度か連絡しないとつながらない方もいる。

ご家族からすれば「お金を払って介護施設に親を入れているのだから、何かあっても施設で何とかしてほしい」と思うのかもしれない。

しかし、介護施設はあくまで居室や食事などの生活環境の提供や、必要に応じて個々に合わせた介護サービスを提供するだけである。

もちろん、細かい家事援助や書類手続きなどを行うこともあるが、ご家族しかできないことは対応できない。そうすると、施設としては手の打ちようがないため困ってしまうことがある。


■ 施設運営への影響


では、ご家族に連絡がつながらないと、何が困るのだろうか?

例えば、施設運営に関わる内容への「同意」がある。料金体制など施設運営の一部が変更になった場合、重要事項説明書などの公的かつ契約時にお渡しした内容も変更になるため、入居者本人が同意できる心身状態でなければ、ご家族を代理人として同意いただくことになる。

当然、施設側の話なので、施設側が入居者の代わりに同意するなんてことはできない。それは自作自演というか違法である。

となると、どうしてもご家族にご理解いただき、文書等で同意をいただくことになるわけだが、変更同意書などを送付しても、全く返信がない場合がある。もちろん返信用封筒も同封しているので、内容を一読していただいて署名・捺印をいただき投函いただくだけである。

郵送物に気づかないこともあるので、返信が来ない場合は電話をするのだが、今度は電話になかなか出ない。お忙しいと思って幾度もトライするものの、折り返すらない。
この状況が続くと、施設運営としては利用者またはご家族の同意がないままサービス提供をしたり変更後の料金請求していることになってしまう。

つまり、ご家族に連絡がつかないということは、介護施設にとって運営基準やサービス業として法令や道理に背いてしまう恐れがあるのだ。

このような状態のままだと、運営指導(旧 実地指導)などで行政から突っ込まれても「ご家族につながらないのです」などと言い訳はできない。キツイ指導を受けることはないが、「ご利用者様のためにも、ちゃんと連絡がつく体制を作っておいたほうが良いですよ」と指摘は受ける。


■ 入居者の生命への影響


とは言え、これはあくまで施設運営の話である。極端な言い方をすれば、行政から指摘されたら「今度から気を付けます」で終わりとなる。

また、人のせいにするわけではないが、体制に不備があれど悪意はないし、施設としては適正な整備をしたいけれど、ご家族と連絡がつかないという外部要因で成立できないわけだからどうしようもない。

もちろん、施設運営に不備が出てしまうことは困ると言えば困るが、そこは本質ではない。

ご家族に連絡がつかないことで予想される1番の課題は、施設に入居したご本人の生命に関わることである。

具体的には、高齢者でいつ何が起きてもおかしくない入居者が、突発的に状態異常になったとき、検査等の結果として処置や手術などを要するとき、救急搬送となったとき、入院となったとき・・・。

こういった生命に関わること、医療対応に関わることは原則として介護施設は判断できない。介護施設に入居者の生命に関する判断権はないのだ。

いくらご家族が「施設にお任せします」と言ったとしても、それは通用しない。ご家族が医療から説明を受けて、ご家族が判断しなければいけない。

そこで、例えば救急搬送になって手術や入院となったとき、「ご家族と連絡がつきません」となると医療機関はどうしようもない。医療機関もまた、最低限の生命維持の措置はするだろうが、本格的な処置をするか放置するかの判断はできない。そこで何かあったら責任がとれないし、高額な医療を要するとなった場合に支払えないという結果になっても困る。

ときには、入居者のご家族に連絡がつかないことで、救急や緊急受診に同席した介護職員が医療機関から怒られることもある。理不尽である。


――― というわけで、自分の親や親族を介護施設に入所したら、そこから先は介護施設に全てお願いできると思わず、関わることは関わってほしいということをお伝えしたかった。

昨今では、介護施設だけでなく医療機関もこの手の対応が増えていると聞く。特に日本は高齢化社会であるため、搬送される患者も高齢者が増えている。手術をするだけでもリスクがある年齢に対して、うかつな処置ができないのが本音なのだろう。

また、訴訟問題や医療ミスなどのリスク管理も考えると、介護施設も医療機関も有事の際の判断権はやはりご家族と考えるのは自然である。

同意や緊急時の連絡先は頻繁にあるわけではない。せめて、要所要所で関わる機会を持っていただければ幸いだ。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

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