見出し画像

「人員不足でもサービス継続に応じる」は立派な考えだが、ちゃんと「逃げ道」もあったほうが良い

■ コロナ感染に対する国の支援


高齢労働省から通知されている「令和5年度新型コロナウイルス感染症流行下における介護サービス事業所等のサービス提供体制確保事業実施要綱」というものがある。
これは介護サービス事業所や介護施設において、新型コロナウイルスの感染又は濃厚接触が発生した場合でも高齢者は介護を要することから、介護サービスが継続できるよう国や都道府県が主体とする支援を行う制度である。

まあ、分かりやすく言えば補助金である。もちろん、何でもかんでも対象となるわけではないし、ありがたい話であるが申請においては結構面倒な手続きをすることになる。

もしかしたら「コロナウイルスって落ち着いたのに、補助金などの支援は必要なの?」と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、完全に収束したわけではない。
コロナウイルスは5類型に移行したとは言え、感染症としての脅威は変わっていない。未だにクラスターが発生することもある。実際、私が経営に携わっている介護施設においては今年で2施設でクラスターが発生し、うち1施設は5類型に移行して以降にクラスターが発生した。

このような現状もあるように、国としても介護サービス事業所に対してのコロナ感染に対する支援はまだ地味に行われている。


■ 人員不足でもサービス継続を求められる介護


冒頭の通知文の一部を読んでいて気になる文言があった。それは、この支援の「目的」に記載されてる一文である。

「介護サービスは、要介護高齢者等やその家族の日常生活の維持にとって必要不可欠なものであるため、新型コロナウイルスの感染等によりサービス提供に必要な職員が不足した場合でもサービスの継続が求められること等から~(略)」

令和5年度新型コロナウイルス感染症流行下における介護サービス事業所等のサービス提供体制確保事業実施要綱

この中の「サービス提供に必要な職員が不足した場合でもサービスの継続が求められる」という部分が気になった。

予めお伝えしておくと、これは通知文の一部であり、支援全体から見ると目的として間違っていないので国を批判するつもりはない。単純に、介護という仕事は人員不足に陥っても何とかしてサービスを継続することが求められているのだな、と再認識したというだけの話だ。

そのうえ、介護の担い手自体が少ない時世において、感染症や自然災害などによって人員不足がさらに進むとなると社会福祉が成立しなくなることから、国もこのような支援をするのだろう。

しかし、上記の一文を介護従事者が見たならば「ただでさえ大変なのに、人員不足になってもサービスを継続しろなんて酷い話だ」という反発があるかもしれない。また、介護に携わっていない方々からも「高齢者に対してそこまでしなければいけないのか?」という疑問の言葉が出るかもしれない。

この手の話になると、優先されるのは介護における理念や倫理感か、ビジネスとして「仕事だから」と割り切るのか、あるいは介護従事者も一人の人間として「無理して体を壊すわけにはいけない」と撤退することもやむを得ないのか・・・という様々な意見に分かれるだろう。

これについては答えは出ない問題である。


■ 対策しても人員には限界がある


感染症も自然災害もいつ起こるか分からないため、どの業種であっても対策を立てているだろう。介護サービス事業においては、令和6年度より業務継続計画(BCP)が義務化となっている。

それでも、どんなに対策を立てたところで人員においては限度がある。それは上記でもお伝えしたように、根本的に介護人材が少ない(介護の仕事をやろうとしない)ことがあるうえ、感染症や自然災害などの有事においてはさらに少なるなることは想像に難くない。
そのような状況になったときでも「サービスの継続が求められる」と言われてしまうと眉をしかめてしまう。

もちろん、プロフェッショナルとしては大切な意識であるし、介護サービスは介護保険制度(いわば税金)のもとに成立していることから、サービスの継続により高齢者とその家族の生活を守る姿勢は必要だ。

もちろんこれは介護に限らず、どの業種でも求められる姿勢だ。どの仕事でもその状況下でできる限りの対応はするだろうし、それを実現するための事前準備や整備もしているだろう。


■ 逃げ道がないと人が離れる


プロとしてのあり方や制度構成を加味しても、どのような状況下においてもサービスの継続を要請されるとなると、まるで逃げ道がないようにも見受けられる

しかし、多少なりとも「逃げ道」はあったほうが良いと思う。

それは「ここまでは対応可能だが、そこからはサービスの実現は困難」とか「有事の際に職員が〇人いれば平時どおり稼働可能」「施設内での感染状態と人員によっては食事提供や排泄は1日1回にせざるを得ない」といったことも想定しなければいけない。

そして、その逃げ道に対しては介護サービスを提供する介護従事者や事業所がやむを得ずと理解することはもちろん、サービスを受ける高齢者やご家族にも納得いただくことも必要だ。

このような逃げ道に対して「プロとして甘い」と思われる方もいらっしゃるかもしれないが、人員不足など事業所としての体制がおぼつかない状況でも平時のようなプロ意識を求めるのは酷だと思う。
実際、そのような「どのような状況下でも無理して介護するべし」みたいな価値観の強要が伺える。

個人的な考えだが、有事の際に優先するべきは介護従事者だと思う。

人員不足でもサービス継続する対策や整備は必要であるが、最初から人員不足でも介護サービスを提供しようと無理してしまうと、今度は介護従事者が壊れてしまう。その先にあるのはさらなる人員不足である。

介護を必要とする高齢者やご家族には不便をかけることになるが、介護従事者の心身と身の安全を確保するような体制にしないと、逃げ道のない仕事として人材はどんどん離れてしまう。

まずは、このような感染や災害など有事の体制を考えるときから、高齢者への介護サービスの継続とは別に、「介護従事者も守る」という視点ありきにしてはどうか。

そうしないと社会は「やっぱり介護ってキツイ仕事」という認知になってしまい、どんどん人材不足に陥ってしまう。

社内において必要な仕事であるならば、そこで働く人たちのためにちゃんと「逃げ道」を作ってあげることは大切だと思う。


ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?