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内なる第三者、コーポレートダイバー

「おっ、くちなしさん、コーポレートダイビングしてますね」

“コーポレートダイビング”とは、私が自分の仕事の姿勢として考えた造語で、私の経営する会社の社是にもしている。

この言葉を覚えてくれている人が時々いて、仕事で会うとこのように声をかけてもらえることがあるのだが、大体私が自分の仕事のスタンスについて熱っぽく話し「コーポレートダイビングとは・・」を語っているときは酔っている席が多いので、覚えてくれていた嬉しさと酔っ払っていた恥ずかしさで頭皮が焼けるような感覚になる。

コーポレートダイビングとは「仕事において相手の企業のことを知り尽くして、相手の会社の社員になったつもりで取り組もう」という姿勢を示している。

ちなみに「コーポレートダイビング」という言葉を思いつく前は「内なる第三者」という造語で呼んでいた。

こう書くとなんだかしんどそうなスローガンにも思えるのだが、興味を持って取材して自分の情報量を増やした方がブランディングに役立つ良いものを作りやすいし、できるだけ親身になって喜んでもらえたら嬉しいというだけの話である。何より私が取材好きで、知らない世界を覗けるのを楽しいと感じる質なのもある。

相手のために相手に興味をもって知り、相手の世界に踏み込んで、相手を理解したデザインを作ろう、それがエンドクライアントに届くように共に考えよう。これぞコーポレートダイビングだ。と、社是として掲げたのである。

「大変そう」とよく言われるのだが、こんなスタイルに至るまでに、意思疎通に関する悩みによくぶち当たっていた。

例えばデザイン制作で例に挙げると、デザインというのは社内制作部が無い限りは外注するもので、この場合私は受注者であり、組織の部外者である。

外注するにあたり企業担当者は「これこれこのようなデザインが必要ですよ」という要件定義、または要件定義に必要な情報などを示す、オリエンテーションが必要になる。

このオリエンテーションが曲者で、いったい誰が始めたフォーマットなのか知らないが、Wordファイルにテキスト平打ち1ページみたいな非常にシンプルな情報量で渡されたりする。

作れなくは無いんですが・・もっとこう・・教えてもらえませんか。と聞くのだが、現時点ではこれ以上言及しないので、おまかせしたい。いまある情報がすべてだから、うまく膨らませて欲しい。というオーダー。
よくある流れである。これはまだ良い方。
(ちなみに情報が無いときは補完すべくリサーチして進めます)

こういうケースもある。
「自社の商品やサービスがどうあるべきか、自社は対外的にどう見えているか、方向性としてどう進んでいくべきか、社内からは見えなくなってしまっている。故にオリエンテーションをどうして良いものか悩んでいる。」
というところから始まる。

つまり悩みが顕在化していない状態が悩みだったりするわけである。
肌感覚では中小企業の場合このケースがとても多いように感じる。

前者の情報量が少ない場合もこれに似ていて、うまく表現できないから硬く簡素な言葉でまとめてしまっていることもままある。
(とはいえ、最近はまずは要件定義のためのディスカッションから始めるケースも増えてきたように思います。良い時代。)

そりゃそういう悩みももっともで、長年自社業務に従事して、売上目標など目指す先はあれど、まずは安全運転。自社商品がトラブル無く作られ、顧客にクレーム無く納品できることを第一に業務していると、第三者目線をもって部外者に自社サービスのあるべき姿を要件定義するなんて、ある程度テキストにまとめるだけでも結構な思考転換が必要な重労働なのが一般的じゃないかと思う。(無論、会社によるし人によります。)

デザイン業務を例としたが、場合によっては組織や人員に関するお悩みだったり、社としての方向性や理念のお悩みであったりする。
いずれにせよ「うちの会社とはどうあるべきか」という大きな問いから始まる悩みである。

この「悩みを外部にうまく言えない悩み」に答えられないか、どうすれば解決しやすくなり、意思疎通しやすくなるのか。
考えた結果が「内なる第三者として、相手企業の社員になりながら、第三者目線から物を言える立場になる」つまり相手に飛び込む、コーポレートダイビングをすることだった。


「企業は人なり」とは能く言ったもので、飛び込んでみると企業それぞれの社風や、歴史や、人柄や、事情や、創業者の個人的な思いなりがあって、それらが組み合わさって会社組織を成している。

社員の方全員にヒアリングさせてもらうこともあるが、職場とは一人ひとりの生活であり人生の集合体であると感じることも多い。

会社が成長するためにマーケティング観や業界観といったマクロの視点はもちろん大切なのだが、マクロ視点だけでうまく立ち行かないときに、ミクロの問題をはらんでいることが多いように思う。

もちろん解決するのは楽なことばかりではなく、むしろ大変なケースも多い。我ながら大変な社是を掲げてしまったと思うこともあるが、その分求められているスタイルだとも思っている。
何より、色々な企業や地域が持つ特色に飛び込ませてもらって、中の人も気づいていなかった魅力を見つけられた時、それを喜んでもらえた時は冥利に尽きる。

とはいえ、私だけでは体はひとつである。私の会社はまだ小さな組織だが、自分がコーポレートダイバーとしてモデルを確立しながら、同じ志を持つ人で固めた中規模集団にしてきたいと構想している。

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