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揚げるもの 第668話・11.21

「さてと、まずは何を揚げようか?」俺は新しい家庭用電気フライヤーをネットで購入。それが30分ほど前に無事に家に来た。俺の趣味は料理。本当はプロの料理人を目指そうとしたことがあった。だがいろいろあって料理人の道は断念。今はごく普通の営業マンだ。
 とはいえ休日になると料理を作りたくなる。だから休日はいつも料理を作った。「もしかしたら」という事を料理を作りながら頭の中によぎる。それは会社を辞めてということ。もちろん一瞬で現実的なことに直面し、あっさりとあきらめるが。

 そんな俺が、揚げ物をもっと効率よくできないかと目を付けたのが電気フライヤー。プロの現場であれば、いちいち鍋に油を入れてあげるなどという面倒なことはせず、フライヤーを使う。高熱に熱した油のプールに様々な食材をつけるだけでとたんに油が反応する。こうしてあらゆる食べ物は揚げられていく。

 どのくらいするものか念のために調べると、家庭用であれば驚いたことに思ったほど高くない。「ならば買っちゃえ」という事で衝動買いした。もちろん後悔はしてない。むしろ来たことで喜びにあふれている。だが問題はここで何を揚げるかであった。「何かあるかな」俺は冷蔵庫を見た。しかし揚げ物に適しているようなものがない。いや別にその気になれば何でも揚げてやってもいいだろう。だがこの電気フライヤーを初めて使う。あまり奇抜なものをデビューさせたいとは思わない。

「これはノンフライヤーではないからな。油を使って揚げるんだから、どうせなら定番のものを揚げよう。ということで」俺は立ち上がり、外出の準備をした。つまり近くのスーパーに揚げ物に適していそうなものを買いに行く。

ーーーーー

「さてと、チキンと牡蠣が安かったからなあ」俺は帰ってきて、すぐにフライヤーを見た。まだ未使用の電気フライヤーのボディは、工場から出たばかりの新しさ。使うのはもったいなく感じるが、そんなことを言っても仕方がない。

 俺は油をセットする。もちろん新しく買ってきた。まだ透明に近い油をなみなみとフライヤーに入れる。そして電源を入れて加熱するのを待つ。
「どっちを先に揚げよう」俺は迷った。牡蠣とチキン。最初は先に牡蠣を揚げたほうがよさそうな気がした。どう考えてもチキンの方が揚げる時間がかかりそうだ。だったらとっとと牡蠣を揚げてから時間をかけてチキンを揚げる方が良いに違いない。俺はそう思ったが、ここでふと「牡蠣を先に揚げると、牡蠣のにおいが油に残ってチキンにつかないかな」という疑問が走った。

「牡蠣のにおいがするチキンはどうなんだろう。ん?そうだ」俺はあることを思い出す。そして決めた。最初にチキンを揚げて、そのあと牡蠣を揚げる。その後だ! ここで別のものを揚げてみて、それが牡蠣のにおいや味が付くかやってみようと考えた。
「これならフライドチキンに影響はない」

 こうして最初にチキンを揚げる。新しいフライヤーに新しい油。勢いよく油が飛び散り、無事にフライドチキンが完成した。そして次に牡蠣を入れる。生で水分を十分含んだ牡蠣は、チキン以上に反応しているようだ。「水と油だもんな」俺はひとりでつぶやきながら、カキフライも完成した。

「さあ、どうなるかなやってみよう」こうして冷蔵庫にあったある野菜を加工してフライヤーの中に入れてみる。野菜も水分を含んでいるためか、牡蠣同様に油がはじけるような音がした。「うん、匂うな牡蠣の香り」
 こうして野菜を揚げ終わる。「早速味見しよう」
 俺は最初にフライドチキンを口に含んだ。「うまい」新鮮な油を使ったためか、油に嫌味もなく美味しく食べられた。「次に牡蠣か」俺はタルタルソースも買っていた。だから牡蠣にタルタルソースをつけて食べてみる。「うん、これもいい。牡蠣は美味しいなあ」

 すでに満足気味にフライドチキンと牡蠣フライを食べたが、最後に第三の存在が残っていた。「さてと、油に牡蠣の成分がしみ込んでいたら、牡蠣のような味になっているはず」俺は、牡蠣フライ用に使ったタルタルソースもこの揚げ物にかける。そして口に含んだ。

「やっぱり!」俺は思わずうれしさのあまり口元が緩む。三番目に揚げたのはマイタケであった。「そのとおりだ、マイタケをフライにすると牡蠣フライのようになる!」触感が確かに牡蠣そのもの。そして単なるマイタケではなく、油にしみ込んだ牡蠣のエキスがしみ込んでいるから、余計に牡蠣フライの味に感じたのだ。俺はこの実験が、いちばんうれしかった。「これ牡蠣がないときに、代用品っとして楽しめるな」
 ただしこの揚げたマイタケには牡蠣のエキスが入っているから、いわゆるベジタリアンメニューではないのだろう。それと牡蠣エキスの入っていない油で揚げたら......。







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シリーズ 日々掌編短編小説 668/1000

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