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バスケットボールと遠距離恋愛 第698話・12.21

「こんなところに公園が、あれ、知らなかった。本当に灯台元暮らしだ。この町に3年も住んでいるのに」琢磨は右手にカバンを持ち左手にある雑誌を手にしていた。それはクロスワードパズル。「これにハマってもう1年か。まだ時間があるな。ちょっとベンチに座ってやってみようか?」
  琢磨はベンチに腰掛けて座り、クロスワードに挑戦していると、足元に少し何かがぶつかった感覚を受ける。「うん? バスケットボールか」琢磨は足元に落ちているボールを見つけた。


「懐かしいなあ。学生の頃」琢磨は過去の記憶がよみがえる。中学高校とバスケットボール部に所属していた琢磨であったが、結局レギュラーになることなく終わった。「やっぱり俺には無理だったかいくらでも上がいる。もう封印しておこう」
 そう思って大学に入ったが、そこで奈々に出会う。彼女も高校のときに、バスケットボール部に入っていたということで意気投合。いろんなレベルのバスケットの試合を見に行くほど親しくなり、気が付けば交際がスタートした。そしてお互い大学を出て就職してからも付き合い続けていたが、3年前に琢磨の転勤により遠距離恋愛となってしまう。

「ネットがない時代だったら、多分無理だっただろうなあ」琢磨はこの3年間を回想しながら、気が付けばバスケットボールを手にしている。
 遠距離恋愛になってからもお互いスマホでやり取りをした。スカイプやZOOMなどを使いながら、お互いが画面越しに会えたことで、どうにか遠距離恋愛を乗り切る。
「私最近回文にハマっちゃって」と奈々がいったのは、1年半ほど前だったか。それから画面越しにいつも奈々は回文を見つけては琢磨に報告する。「私の名前奈々(なな)がもう回文みたいだから」と笑っていた。そして彼女が回文にハマったことが影響して、琢磨も対抗するようにクロスワードにハマっていく。こうして琢磨の方もクロスワードを話題に、いつも奈々と遊んでいた。

 そして10日前のこと琢磨に新しい運命。再度の転勤を言い渡されたが、これは3年前の事業所への転勤、つまり元いた町に戻ことが決まる。つまり再び奈々の住んでいる町に戻れるのだ。

 そしてさらにうれしいことがあった。奈々にそのことを告げると「それだったら、もう私の家に引っ越ししなよ。毎日回文で遊ぼう」という。つまり同棲しようというのだ。「そうか一気に彼女と近づける。これは本気で結婚とか考えるときが来たのかもな」琢磨の表情が緩みながら持っているボールを眺めていると、声がする。「そのボール。僕たちのです」
 
 琢磨が我に返ってみると小学生が数人目の前にいた。どうやら公園でバスケットをしていたらしく、転がったボールが琢磨の前に来て、それを拾ったようだ。「バスケット?」琢磨が公園を見ると、確かにバスケットのゴールが設置してあった。「そうか、そういうことか」
 琢磨は一瞬あることを考えたが、すぐやめた。それは少年たちに交じってバスケットを久しぶりにやろうかと。「そんなドラマっぽいのは俺には合わん!」琢磨は、そのままバスケットボールを少年たちに両手で手渡した。
「ありがとうございます!」大声で礼を言った少年たちはそのまままたバスケットゴールに向かって遊びだす。

「さてと」琢磨は時計を見る。「そろそろ駅に行かないと間に合わない」この日は琢磨が3年間住んでいた町と別れる日。すでに引っ越し荷物は、奈々の家に向けて送り終えている。
「帰ろう、奈々の元へ」琢磨は口元を無意識に緩ませながら、クロスワードの雑誌をカバンにしまうと公園を後にした。

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シリーズ 日々掌編短編小説 698/1000

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