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役員報酬決定過程は水準とともに議論を

金融庁は金融商品取引法に関する内閣府令の改正により、役員報酬の構成や算出方法等を企業に開示するように義務付けるとしています。

これまでの役員報酬の開示では年次報酬とそれ以外(中長期インセンティブや退職慰労金)については区分されていました。一方、年次報酬の固定部分と変動部分(いわゆるボーナス)は開示していない企業もあったため、この観点での開示情報増加は有用と考えています。また業績連動報酬の参照KPI(Key Performance Indicator、業績指標)についての開示も企業の姿勢を判断するうえで重要です。

一方、投資家を含めた企業のステークホルダーは役員報酬の決定過程とともに、個々の取締役に払われうる額には引き続き注視する必要があるでしょう。決定過程において報酬委員会の執行サイドからの独立性は日産自動車の事件でも重要性が強調されました。加えて報酬委員会が報酬決定過程について外部コンサルティングファームの協力を仰ぐとする場合も注意が必要な場合があります。すなわち「優秀な人材を確保・維持」することを目的に、業界他社と比較して競争力のある報酬水準を志向しやすくなるということです。ただしそれぞれの業界内でもこれを毎年行っていくと、必然的に妥当な報酬水準が漸増する傾向となり、従業員の平均年次給与水準から大きく乖離する可能性が高くなります。実際欧米では高額な役員報酬水準の是非を問う、株主総会での議案提出がリーマンショックから10年経っても続いています。従業員平均給与とのバランスや、ESG指標パフォーマンス等も業績連動報酬の参照KPIとして採用すべきでしょう。

また業績連動報酬に株価連動報酬を採用すると、さらに別の問題を考慮する必要が出てきます。確かに株式連動報酬は中長期インセンティブの方法として採用しやすく、株主との利害も一致させやすいことから一定の合理性があると言えます。しかし株価は企業業績以上に変動しやすく、取締役の能力の及ばない企業業績以外の要因にも影響されやすい点を考慮すると取締役の業績評価に用いることには是非が問われると考える方が賢明です。株式連動報酬を導入する場合には1)株式報酬の総額に対する割合を限定する、もしくは2)対同業他社の相対的な株価のアウトパフォーマンスと報酬を連動させる等工夫が有効になるでしょう。

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