日本の大学の研究成果は誰のもの?

本庶先生の手厳しいコメントが載る冒頭の記事の引用から始めます。

日本企業は「見る目」がない――。
2018年のノーベル生理学・医学賞を受賞する京都大学の本庶佑特別教授はこう不満を口にした。日本の大学などの研究論文がどこでビジネスの種である特許に結びついているかを調べると、米国の比率が4割を超す。研究開発力の低下が指摘されるなか、イノベーションにつながる国内の芽をどう見いだすのか、企業の「目利き力」が問われる。

実際には、本庶先生の発言は以下のような内容だったようです。

1日、受賞発表後の会見で、本庶氏は日本の製薬会社への不満を強い口調で語った。「日本の大学には良いシーズ(有望な研究成果や人材)があるのに、外国の研究所にお金をたくさん出している。全く見る目がない」

これには色々な視点があります。

上記の本間さんの投稿では、「目利き力」を上げるためには企業にいる人が積極的に社外に出る必要性を説いています。

その通りだと思います、自分に関連する学会や研究会への参加だけでなく、違う分野の学会への参加も有効です。

そうした地道な活動が、「目利き力」を高めるのに役立たないはずはないです。本間さんも仰っているように、そうした役割をきちんと社内的に規定して、その活動を会社として支えるという場合に成立するのかなと。

私自身も製薬企業の研究職をしていたのでわかるのですが、社内システムとしてそうした活動をやる気風は非常に大切です。これまで日本の製薬企業は自前でやろうとする意識が高かったと思っています。

そのため死語になりつつある「オープンイノベーション」をやる企業風土はあまりなかったと。でも、自前では難しいという判断のもと、
R(リサーチ)からL(ライセンシング)へという流れがありましたが、

世界的な製薬企業では何十年も前からやられていたわけですから、
真似したってすぐに追いつける訳でもありません。
やらないよりはやる方がもちろん良いのですが。。。

とはいえ、アカデミアの人たちは日本企業志向ってあるのですかね?

そこらへんのポイントも押さえないと、
そもそも相思相愛じゃないって可能性もあります。。。

さて、日本の大学の研究成果は誰のものなのでしょうか?

この問いへの答えがあるのかは正直わかりません。。。

日本では、
文科省や厚労省の科学研究費助成は日本の国の税金から拠出されています。また、AMEDといった政府系のFunding Agencyもまた国の税金を元手としています。
そのため、政府・行政側から見ると日本の税金で行った研究成果が、
医薬品開発を含む各種工業製品として外国企業から発売されることには
複雑な思いだと思います。

国家が研究に投資する最大の動機は、科学技術によって国が発展すると信じているからです。また、本庶先生も日本からの研究費がなかったら、
PD-1の発見もなかったし、オプジーボというエポックメイキングな医薬品の登場にも繋がらなかったとの思いが強いはず。

そして、その医薬品開発を小野薬品工業との共同研究で成し遂げたということの誇りもあると思います。

ただ、日本の企業に日本のシーズを開発できる力がなかったら、、、
と思うと、誰かが世の中のために製品化するのが良いことなのかなと思います。この記事では、日本の研究成果を特許事業に生かしているのが米国企業だと述べています。

その論拠として、特許明細に引用する論文について言及しています。

その際の日米の特許の引用文献の日本の論文と海外の論文の比率には開きがあります。

以下、該当部分の引用です。

実は日本の研究成果を最も事業に生かしているのは米企業だ。特許出願の際には通常、参考にした論文を明記する。その内容を調べた文部科学省科学技術・学術政策研究所によると、06~13年に最も多く日本の論文を引用したのは米国で、41.5%。25.2%の日本を大きく上回る。特に顕著なのが本庶氏の専門分野の基礎生命科学。米国の比率は46.8%、日本は16.6%だ。

一方で、日本企業はアメリカの論文をよく引用しています。

以下、該当部分の引用です。

一方、日本の企業などが特許出願で最も引用したのは米国の論文で44.1%。日本は27.3%だった。米国の研究開発力は世界トップだが、海外に目を向けている間に、国内のシーズを見落としていた可能性はある。

もしこの引用が目利きと同じ意味と仮定しているならば、日本は米国シーズの目利きができているということにはならないのかなぁと。

そして、海外シーズを実用化できているのなら、それはそれで良いのではと。そして、私は日本のアカデミアにあるシーズが実用化され、
人々の生活に良いインパクトを与えるのであれば、日本企業だろうが海外企業だろうがどちらでもいいのかなとも思っています。

でも私は、日本の企業が目利き力が低いとは思っていません。

ただ、そこに対してどの程度の価値を見込むのかというのが欧米の方が上手なのかなと。

まあ、そこも含めて目利き力って話もありますが。。。
ベンチャーキャピタルの方から聞いた話にはなりますが、
日本企業の方が外国企業よりも安値でのオファーをしている傾向があると聞きました。
欧米が高値で実施権を取得するのは、特許潰しの可能性もありますが、
基本的にはそれだけの価値をきちんと評価しているからだと思っています。

あとは、きちんと正当な価格で報いるというのが大切なのかもしれません。

最後に、企業への注文が多かったので、
アカデミアに対する話題も一つ入れて、終わりたいと思います。

大手製薬企業においてアライアンスを統括していた方の話によると、
以下の点をアカデミアがしっかり意識していると、
国内外の企業は検討しやすくなるとのこと。
・ノンコンフィデンシャルの書類を充実させてほしい
(特許明細だけを渡してくる人はNG)
・事業化を阻害するような特許は取らないでほしい
(可能なら、一緒に明細を書きたい)
・しっかりとした研究ノートを作成しておいてほしい
(技術移管のため)
・サイエンスとしてしっかりとしたデータを取っていてほしい
(特に再現性)
・毒性試験等の必須の項目は、第三者に発注してほしい
(信頼性担保のため)

*日本の企業は、シーズを見極める目と正当な価値を評価できる力を養う
*日本のアカデミアは、企業が判断と利用がしやすい形での準備をしっかりとしておく

この両方の歩み寄りは以前よりも進んでいると思いますが、これからも大切なことだと思っています。

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