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約1,000人の大行進!東京トランスマーチ2022が「想像以上」の連続だった

2022年11月12日(土)。東京都新宿区で「東京トランスマーチ2022」が開催されました。
11月20日の「トランスジェンダー追悼の日」に先駆け、トランスジェンダー認知週間に開催されたこのイベント。
一部報道によれば、当事者を含めた約1,000人がマーチに参加したとのこと。
会場に、路上に、まさに多様な人々が大集合して、メッセージを発信しました。その様子をレポートします。

賑わうブース、熱いスピーチ。多様性を体現した会場はグッドバイブス

会場となったのは、東京都新宿区の新宿中央公園水の広場。都庁のふもとにある、大きな噴水がシンボルになっている公園です。
公式パンフレットによると20以上にもおよぶブースが集結していました。
(プライバシーに配慮し、来場者の映り込みが少ないタイミングで撮影のうえ補正を施しています)

当日のメインイベントはマーチ。マーチすなわちデモ、と思い込んでいた筆者。
シリアスで緊張感溢れる現場を覚悟していったのですが、面食らいました。

「え?こんなに賑やかなの?」
「うっわー。いろんな人がいるなー」

ブンブン・ズクッズクッとテンポの良い音楽が流れ、ブースも来場者もカラフル。そして基本的に、みんな笑顔。
お恥ずかしながら、こんなにワイワイしていると予想だにしなかったのです。まさに想像以上でした。

はい。正直にいいます。
楽しい!これはアガる!もうね、誰でも来られるし、ずっとここにいられる。そんな感じ。
なぜなら。雰囲気がとても明るかったからです。

いろんな人がいる。それを承知の上で、ときには支えあって、いっしょに生きている。
オープンマインド。それがひと目でわかったのです。
おりしもこの日は小春日和。そんな陽気にふさわしい、暖かくて、風通しのいい、爽やかなバイブスに包まれていました。

だからでしょうか。当日は、ふらりと立ち寄ったと思しき客層もチラホラ。
会場の隣には、芝生の美しい広場がもう一つあるのですが、
そこから吸い寄せられるようにやって来た人たちも見受けられました。

バッタリ出くわした、知らなかったリアルワールド。訪れた人々は、きっと何かを感じ取ったはず。
こうやって薄皮を剥くように、社会は変わっていくのかもしれません。
これこそが、オープン空間で開催する醍醐味。偶然や出会いがしらが集まれば、それは運命と名前を変えるのです。

会場のメインステージでは、リレースピーチやパフォーマンスの披露もありました。
中でもとりわけ印象に残っている女性(仮にAさん)のスピーチがあります。少しかいつまんでご紹介します。

Aさんの”妻”はトランスジェンダー。3人のお子さんに恵まれつつ、結婚して18年。いま、男性から女性への性別移行を考えているとのこと。
でも。性別移行の条件として「未成年の子どもをもたないこと」があり、法律がハードルになっている、と。
法的根拠は「子どもがかわいそうだから・戸惑うから」。
そして、Aさんはこう主張されました。

子どもがかわいそうとか、戸惑うとか、勝手に決めないでほしい。うちの子はまっすぐ育ってる。親が仲良くしていれば、なんの問題もない。”妻”の人生を大切に応援したいー

筆者の母にも、トランス男性の彼氏がいました。数年にわたって、私も一緒に暮らしました。
そんな私から言わせれば、Aさんごもっとも!の一言に尽きます。
その法律、ぜんぜんシックリこない。そもそもそんな法律があることも知りませんでした。

ステージで誇り高く、真剣にマイクを握る彼女を、仰ぎ見るような気持ちになっただけでなく。
やはり自分だけではどうしようもない社会的制約が、トランスジェンダーのみなさんには多くあるのだろうな、と浅学を恥じました。

他にもいろいろな主張、言い分、アピールが、ステージから発信されたのですが。
いずれも、自分が自分であることを誇るものばかり。この催しの真骨頂を目の当たりにした次第です。

そんなリレースピーチに引き込まれていたら、ちょっと頭のメモリーがいっぱいに・・・。
一息つくために立ち寄ったブースたちも、これまた想像以上に楽しいものだったのです。

グッズ、本、ファッション、カルチャー。お買い物が楽しー!学びにもなるブース巡り

クマ、かわいくないですか?

ブースの出店者は、トランスジェンダーを支援する活動団体はもちろん、出版社、ショップ、書店、BARなど。いずれも個性あふれるものばかり。
秋空の下、出店する人もブースを訪れる人も、思い思いの交流を楽しんでいました。

そして最初に私が足を止めてしまったのが、こちらのniji-depotさんのブース。
日本で唯一のLGBTQ+とAllyのためのアクセサリー&雑貨専門店とのこと。
写っているグッズ以外にも、バラエティ豊かでセンスのいいグッズがたくさん売られていました。
あれもこれもと目移りしながら、記念に缶バッヂを一つ衝動買い。

こちらはサウザンブックスさん。世界のLGBTQ+関連書籍を翻訳出版している出版社さんです。
私がとくに気になったのは、児童書。とにかく絵が素敵なのです。
ずっと気になっていたものの、買うタイミングを逃していた一冊を発見。秒で買いました。

続いてはこちら。本イベントの主催でもあるTransgenderJapanさんのブース。東京トランスマーチ関連グッズを売っていました。
とりわけZINEが、手に取っただけでかなりの意欲作だとわかるシロモノ。DIY感もたまらん一冊でした。
私は「片袖の魚」という映画が好きなのですが、その監督や役者さんも寄稿されていて。
「お金がいくらあっても足りないな」
と思いつつ、こちらも脊髄反射的に購入。
ちゃんと当事者の方が作った一次情報を読もうと感じた、ということもあります。

お買い物ばかりではありません。こちらはXジェンダーのコミュニティ団体ブース。
「あなたのジェンダーアイデンティティは?」と、来場者にアンケートをとっていました。
男(male)-無(Agendar)-女(female)の軸線のうえに、シールを貼っていくという趣向。
こちらのパネルひとつとっても、性の多様性が観て取れますね。
ちょっとハートに近いカタチになったのも象徴的です。

男女の二元論で生きてきた自分は、二次元空間で生きてきたようなもの。
見えてないものが、絶対にたくさんあるはず、なんて感じたりもしました。

もちろん力強い主張のブースも。

こういったいろいろな個性のブースが、区切られることなくひと連なりになっている。
その有りようはまさに、社会のホントの姿を剥き出しのまま描き出しているようにも見えました。
しかも、隣り合いながら互いを侵さず、対話を楽しんでいる様子は、理想的でもあり。
いわば、すてきな混沌。社会に描かれてほしいパッチワークキルトのようでした。

ちなみに、これが私が買ったもの。読むの楽しみ。熟読したいと思います。

交わされる笑顔、響きわたるコール。1,000人マーチは壮観の一言。

そしていよいよ1,000人マーチがスタート。

コースは会場のある西新宿から、JR新宿南口(バスタ新宿のあるところ)、新宿二丁目、歌舞伎町を経て、ふたたび西新宿へ、というもの。
新宿でもとりわけ人通りの多い主要エリアをほぼ網羅することになります。

14:00に新宿中央公園をスタートしたマーチは4つのグループに別れて、新宿の街を練り歩きました。
私が追うことができたのが、3つめのMusic&Messageのグループと、4つめのprotest chant(シュプレヒコール)のグループ。
はい。ブースでの買い物にうつつをぬかし、1つめと2つめに間に合わなかったのです。気づいたら、先陣が出発してました。不覚。

Music&Messageのグループは、全国から集められたメッセージを読み上げながら行進。
かたやのprotest chant(シュプレヒコール)のグループは、トランスジェンダーはもちろん、人種や障害などのマイノリティにも視野を広げ、権利と連帯を叫んでいました。

やはり1,000人規模ともなると、待てど暮らせど行進は途切れず。
「ちょっ。これ、もはやスペクタクルじゃない?」
「え?うそ。まだ続くの?」
そう。これほどの規模、そして迫力は想像を遥かに超えていたのです。まさに壮観の一言。

当事者の人へ。あなたは一人じゃないー
非当事者の人へ。トランスジェンダーは身近にいて、共に暮らしているー

そんなメッセージが、音と言葉だけでなく、存在そのものからパワフルに発信されていました。
列中で歩く人たちは沿道に手を振り、沿道の人々もまた手を振りかえす。
笑顔から笑顔へのコールアンドレスポンスは、希望を感じさせてくれました。私もしっかり笑顔を受け取り、笑顔で返しました(できてたはず)。

沿道から見ていると、通りがかりの人たちのリアクションもよくわかります。
私の半径2m以内に限ってではありますが、どの箇所でもあまりヘイトなども聞こえてこず。少しホッとした自分がいました。

土曜日の昼過ぎ、新宿は買い物客でごったがえします。
マーチのコースには高級ブランド店が軒をつらね、ご年配の姿も多く見られます。
私の背後で見ていたオバちゃまたちからは
「これなんの(デモ)?」
「あれよ、ほら、トランスジェンダーの人たちの」
「あー」
といったやりとりも聞こえてきました。

かつて新宿在住者だった自分としては、このやりとりに隔世の感があり。
とくに二丁目の人々には、どれだけ救われてきたことか。
そんな人々のことを差別用語で言い示すことが常だったひと昔まえからすると、
「トランスジェンダー」の名称は認知されつつあるのだなぁ、と。

ただ、先の会場で見聞きした通り、トランスジェンダーへの理解や人権はまだまだ。
マーチがどこに向かうのか。最後尾からは見えないその行き先に、大きな希望があるといいなと、心から願いました。
そして、沿道で見ている私も傍観者ではいけないな、とも。

もしかすると別の地点では、罵声が飛んでくることもあったかもしれません。
悲しいかなそう考えたほうが現実的、というのが日本の実情です。
でも、きっと。あの行進は、そんなものにはビクともせずに突き進んだのではと。
だって、あのマーチにはうつむきは似合わないから。凛と胸を張り、もっと幸せな未来を目指すまなざしこそふさわしい。
明るくて、楽しくて、気高くて、強靭。そんなオーラのようなものが、このマーチにはありました。

そもそも東京トランスマーチの記念すべき始まりは、2021年11月20日。
トランスジェンダー追悼の日に第一回が開催され、日本で初めてのトランスマーチとなりました。
同回には500人近くが参加し大成功。今年はその第二回となります。1,000人が参加したとなれば、大躍進ですね。

主催はTransgender Japan(TGJP)という団体。トランスジェンダーが差別されることがなく、人権が擁護された社会を目指して活動しているとのことです。
東京トランスマーチ公式サイトには
「LGBTQ+の中でもトランスジェンダー特有の問題があります。一方で、LGBTQ+の中ではトランスジェンダー数が少なく、それらの問題が注目されにくい現実があります」
とあります。
さらに
「そのようなトランスジェンダー特有の問題のために、世界中でマーチ(行進)や抗議行動、人権集会などが行われており、多くの場合は、地元のLGBTのためのプライドマーチの時期に行われています。
これらのイベントにより、トランスジェンダーのコミュニティを構築し、人権擁護・啓発に取り組み、トランスジェンダーなどのジェンダーマイノリティの認知度を高めるために、当事者コミュニティによって実施されているイベントです」
とも。
ママ引用してしまってスミマセン。でも、中略するところがないほど大切で切実なことばかりだと思うのです。

許せない現実として、トランスジェンダーへの誤解・偏見・差別・排除があります。
同団体の共同代表のメッセージには「命さえ脅かされることが少なくない」とありました。
私は非当事者であるからこそ、マーチの裏にある、慄然とする現実を忘れてはいけないと感じました。

重くのしかかる現実に決然と、そしてポジティブに立ち向かうイベント、東京トランスマーチ。
私にとっていちばんの「想像以上」は、1,000人にも及ぶ人々が立ち上がり、闘志を見せたという、新たな現実だったのかもしれません。

おまけ。

私が非当事者でありながら
「東京トランスマーチをこの目で見なくては!」
と思い立ったきっかけが、こちらの書籍。
ショーン・フェイ著、高井ゆと里 訳の「トランスジェンダー問題」です。
私にはかなり手強い本ではあるのですが(これも想像以上・・・)、少しずつでも勉強していこうと思います。
来年のこのマーチが、もっと大きく、もっとハッピーなものになることを願いながら。

東京トランスマーチの応援企画として、11月17日、24日、25日の全3日間。
【書籍「トランスジェンダー問題」を読む】がYoutubeで配信されるそうです。
市民団体trunkさん主催、ネットラジオ・SHIRU‐SEEにて。ご興味ある方はご覧になってはいかがでしょうか。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

※本稿はこちらにコラムとして掲載されました。


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