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あれから五年、『恐怖の草男』

「お母さん。なんかつまらなそうだね」
長女が言った。
「ずっと落選続きで嫌になった。20年前はいろいろな賞を取ったけど、時代が違う。時代の求める小説があのころとは全然違うんだ……」
「noteやってみたら?」
「それ何?」
「入選落選に関係なく何でも投稿できるんだよ」

それが始まりだった。5年前のことだ。

娘が会員登録してくれたが、何が何やら分からない
「アドレスって何?」
「パスワードとどう違うの?」
「コメント?それ書いたらどうなるの?」
「写真の載せ方、ああ、難しい~」

娘は、時には呆れ、時にはため息をつき、時には追いかけてしつこく聞く私から逃げ出しながら、それでも見捨てずやり方を教えてくれた。

最初は短文を投稿した。スキなど一つも来ない。
私の文はやっぱり時代遅れなんだ……。
「小説、投稿したら?」
「電子画面に小説なんて想像できない。やっぱり小説は紙の本でなきゃ」
とは言いながらちょっと書きたかったテーマが頭をもたげた。

異星から飛来した生物が地球を滅ぼす……。
あり得ることだ。
地球人だって、そもそもは異星から飛来した生物かも知れないのだ。

ようやく完成、娘の手を借りで連載形式で全部投稿。
娘は仕事先のベトナムに帰った。

その後、私は病気が発覚、入院、手術となる。その頃中国で発見されたコロナウィルスが世界に広がりだした。
未知の疫病の前に世界の様相が変わった。
娘は日本に帰って来れるだろうか。娘に会えないまま私は死ぬかも……。
これが私の運命なのか。
私は病院のベッドでひとり泣いた。

しかし、長女は出国禁止一歩手前の飛行機に乗って帰ってきた。

その後、ベトナムは外国からの出入国完全禁止となり、娘はベトナムに帰れなくなった。コロナが娘を私の手もとに戻してくれたのだ。
娘は『恐怖の草男』を本のようにまとめてくれた。
この方が読み易いから、と。

いつ、どこで知り合ったか。パートナーを見つけ、結婚の運びとなったが、コロナで結婚式どころではない。
90歳過ぎの相手方の御両親がこちらにあいさつに来ると言うのを止め、私がひとりで横浜に向かった。
県外に出るのも、高齢者が外出するのも、はばかられる異常な時代だった。

電車の窓から荒涼とした空を見ながら思った。
書いているときは意識しなかったけれど、『恐怖の草男』の草男はコロナウィルスのことだったのだ。
コロナウィルスが地球を駆逐する話だったのだ。
小説の光景とコロナのすさまじい広がりが重なった。

『恐怖の草男』にはスキもコメントも来なかった。
でも、私はあの小説は地球の未来を暗示していると、ひとり納得、満足していた。

コロナ禍のなか、
誰も感染しませんようにと祈る思いで長女一家と次女一家を招いた食事会を小さな料亭で執り行った。
皆の顔合わせが終わるまでは絶対に死んではいけない、と自分に言い聞かせながらすべてを完了した。
なぜ私一人かと言うと夫はそういうことは苦手というか、出来ないのだ。
今までもすべて私が一人でやってきた。
それが運命なのだ。そう思ってやってきた。

神さま、ありがとう。全部終わりました……。
これでいつ死んでもいい、とほっとした。

今コロナはかなり落ち着き、初期のころの恐怖感も消えた。

そしてなぜか『恐怖の草男』にスキが来るようになったのだ。フォローしてくれる人もいる。

今ごろ、どうして?
でも嬉しい。
私にいろいろなことがあったようにあの小説も完成するまでにいろいろなことに出会ったのだ。
そして画面の奥でじっと出番を待っていたのね……。

noteに初めて投稿した小説。
ちょっと変わったホラーファンタジー。
大きく羽ばたいてほしい。


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