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推薦小説:アリス殺し

 作家の小林泰三先生がお亡くなりになったと聞いて、『アリス殺し』シリーズを再読しています。

『アリス殺し』はシリーズの第一弾。
 ジャンルは、推理系ミステリー。

 わたしは童話の『不思議の国のアリス』が好きなので、書店でこの本をとりました。

 推理系ミステリーなので、連続する殺人事件が起こります。その謎を解き明かしていきます。
 そのため、そういったジャンルが好きな人は、推理ものとして楽しめます。

 ただし、この小説の肝は『世界観』。

『不思議の国のアリス』がもちろん関わってくるので、『不思議の国』が存在するのです。『夢の中』……『不思議の国のアリス』だったらね。

 ただ、『不思議の国』に存在する住人は、『現実世界』とリンクしているのです。

『不思議の国』で殺された住人は、『現実世界』で死ぬのです。

 主人公のまわりで、不思議の国で関わった学校の関係者が謎の死を遂げていきます。アリスも疑われはじめます。

『不思議の国』ではトランプの女王陛下の支配下です。現実世界の法律など関係がありません。犯人にされたら、殺されてしまいます。「首をはねよ」とね。

 主人公は、『現実世界』と『不思議の国』の両方で、真犯人を暴きにいくのです。

 そしてまさかの犯人。

 そして、まさかの……。

 この『まさかの』が後半のたたみかけで連続して起こります。

 殺人事件の犯人だけじゃないんです。
 この物語の真実は。

 後半、
「えっ?」
「えっ?」
「あー、そういうこと?!」
 が止まりませんでした。

 それ以外に私が素晴らしいと思ったのは、『不思議の国』の住人達の会話です。
 原作の『不思議の国のアリス』では話の通じない住人達の「へんてこな会話」や「意味不明な思考回路」にアリスが振り回されます。まさに、それを忠実に書き起こしています。
『不思議の国のアリス』の二次創作系は帽子屋がイケメン化されていたり、白ウサギが美少女にされていたりしますが、この『アリス殺し』本当にイラッとさせるくらい、原作のキャラクターの会話をしています。
 その原作の世界観を崩さずにミステリーに取り込んでいるところに感激しました。

 ちょっと変わった推理系ミステリーを求めている方は、お手にとって、アリスと一緒に真犯人とこの世界の真実を見届けてみるのはいかがでしょうか。

※ただし、後半少しグロテスクな表現が少し含まれるので、苦手な方は注意。

 シリーズ物として続きますが、単品で完結しているので、これだけでも楽しめますよ。

 そして、著者の小林泰三先生のご冥福を心からお祈りします。

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