記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

大いなる河のように 時は流れ 戻るすべもない~読書note-18(2023年9月)~

9月も暑かった。彼岸が来ても秋の気配は訪れなかったが(トップ写真は彼岸の頃の夏のような空)、ようやく10月になると一週間遅れで曼珠沙華の朱色も目立ち始めてきた。10月3日が結婚記念日なので、10月は一年の中でも何か特別な感じがする月だ。もちろん、銀婚式を一緒に祝うはずの妻は、横にはいない。「月が綺麗だね」とでも言いながら、ワインで祝いたいのに…



1.推し、燃ゆ / 宇佐見りん(著)

3年前の芥川賞受賞作が文庫本になってたので購入。今どきの青春小説が、日本最高峰の文学賞を受賞するというのが、凄く意味あることだ。「推し」という言葉の説明も要らぬ今だからこそ、の時代の切り取り方だなと。「推し」がメジャーな言葉の仲間入りしたのは、AKBが流行った辺りからか。

ある男性アイドルを熱狂的に推す高校生のあかりが主人公、学校も家族もバイトも上手くいかぬ毎日を何とか生きている。推しを推すだけが生き甲斐であるのに、ある日、その推しがファンを殴ったことで炎上して…。そう、表題はその状態を表した言葉だ。

自分はあかりほど、誰かを熱狂的に推したことはない。もちろん、好きなアイドルやアーティストはいたけど。そういう意味では、今の「リヴァプールFC」を好きな状況が、我が人生で一番「推し」ているのかも。毎試合必ずライブ観戦するし、そのために配信サイトも3社(SPOTV、WOWOW、DAZN)に加入してるし、ユニも毎年買ってるし、そして何よりも、リヴァプールが勝つと嬉しいし、負けると凹むし。

しかし、あかりが堕落していく様を見てると、先日就活を終えた次男との話から感じた就職感あるいは人生感に通ずるものがあった。我々が就活していた頃は、長く勤めるから、少しでも条件の良い、安定した企業を、と思ったものだが、次男は「5年後にこの会社にいる自分が想像できない」などと言うのだ。何ていうのか、長期的な視野が無いというか、とりあえず「今」だけを大事にしているというか。改めて、今の時代を映している本だなぁと。


2.あなたの愛人の名前は / 島本理生(著)

島本理生さんは、昨年9月に読んだ直木賞受賞作「ファーストラブ」以来。同作は恋愛小説かと思ったら、倒叙ミステリーのようだったが、本作は文字通りの恋愛短編集。ちょっと訳ありな大人の恋愛を描く6篇。

6篇の登場人物が微妙にクロスオーバーする。特に3話目「あなたは知らない」は、結婚間近の彼と同棲中の瞳が主人公で、バーで知りあった浅野と付き合う話、4話目「俺だけが知らない」は、その浅野を主人公に逆側から見た話。両方向から見た心象を繊細なタッチで描くことで、二人の心のすれ違いが痛いほど分かる。

まぁ、相手の本心が分からないからこそ、恋愛はワクワクするし、勘違いもするし、スリリングでもある訳で。しかも、それが絶妙にすれ違うから、世に失恋ソングが溢れ、涙の数だけ強くなったりするものなので。っていうか、日本って失恋の歌が多過ぎないかい?

先月は、FODで「北の国から」を最初から見直していたのだが、昔は令子(いしだあゆみ)が凄く嫌な女だと思っていたが、五郎(田中邦衛)を嫌いになる令子の気持ちも少しずつ分かってきた。だから俺も、妻が俺のことを嫌いになる気持ちも何となく分かるよ。


3.ダーク・ブルー / 真保裕一(著)

今年のGWに読んだ「おまえの罪を自白しろ」以来の真保裕一作品、同作は政治家一族の話だったが、本作は出世作「ホワイトアウト」同様の冒険サスペンス。「ホワイトアウト」は雪山の奥地のダムがテロリストに占拠される話だが、こちらは海の上、更に海底にも触手を伸ばすシージャックだ。

フィリピン海盆へ調査に向かった母船「さがみ」が海上で武装集団の襲撃に遭い、船員全員が人質に取られる。彼らの目的は、潜水調査船「りゅうじん6500」を使い、深海の沈没船に隠された宝を引き揚げること。海底4000mで行うミッションに、女性潜航士の大畑夏海がパイロットに指名され、ロボットアーム等の操作をするもう一人の乗組員は、武装集団の通称セッター。果たして、お宝は引き揚げれるか、人質は助かるのか?

いやぁ、真保さんの本領発揮というか、スリリングな展開でどんどん読み進めるのだが、全体としては、どことなくゆっくりと物語が進む感じがする。海の上、海底が舞台だからなのか、あるいは「ホワイトアウト」の容赦なく殺戮を続けるテロリストと違い、このシージャック犯のリーダーやセッターは、無駄な人殺しはせず、ミッションを遂行させることを第一義としていたからか。

登場人物の中で一番の変わり者、りゅうじんの開発に携わった大学教授、奈良橋がキーパーソン。窮地を救うのは凡人ではなく変人か。その助手の久遠と夏海、船長と副料理長、緊急事態の中で色恋沙汰が絡むと、余計な心配事が増えるよね。底無しの海に〜沈めた愛もある、ってか。

海の上は、昔ヨットをやっていたので馴染み深いが、深海って、自分にとっては未知の領域だったので、普通に面白かった。ダイビングは今後の人生でもやりそうもないかなぁ。


4.落日 / 湊かなえ(著)

北川景子と吉岡里帆という自分の好きな女優さんが主演でドラマ化され、WOWOWのおすすめで出てきたので直ぐ見たかったが、やはり、自分のセオリーとしては、映像化作品は原作を読んでからでないとと思い、購入して読み始める。

15年前に起きた「笹塚町一家殺害事件」を映画化しようとする、かつてその一家の隣に住んでいたこともある、新進気鋭の映画監督・長谷部香とその町出身の新人脚本家・甲斐真尋が主人公。二人ともどことなく陰のある女性だ。

構成が面白い。香の目線で過去の記憶を辿る「エピソード1〜7」、真尋の目線でその映画化へと藻掻きつつ進む現在の物語が「第一章〜第六章」と、それが交互に展開される。意外とこうやって、章ごとに目線(語り手)を変える手法って、小説ではメジャーなのだと最近思うようになった。

その事件の取材を続けて真相に近付くうちに、流石に「イヤミスの女王」⁉️香と真尋の辛い過去が明かされていく。まぁ、香は最初から明かされいたか。それを乗り越えて、いっぱしの映画監督と脚本家にならんと奮闘する二人の姿、もう完全に北川景子と吉岡里帆に脳内変換されて読んでたよ。

そして、WOWOWオリジナルドラマ、見た。オイラ的には「VIVANT」も超えて、今期No.1ドラマではなかろうか。どんな事件にもその裏には物語がある、それを想像させる原作が面白かったってことか。そして、何といっても北川景子が最高!!今年は「女神(テミス)の教室~リーガル青春白書~」の柊木先生も、「どうする家康」のお市の方も凄く良かったし、本作の少し心に闇を抱えた長谷部香役は、全体的に抑え気味だが、ここぞという時に感情がぶわぁっと溢れ出す演技が、とても胸に響いた。


5.キネマの神様 / 原田マハ(著)

原田マハさんの作品は、夏休みに読んだ「リボルバー」に続いて2ヶ月連続。数年前に志村けんさんの主演が決まってて亡くなってしまった映画が公開された時、読もうと思っていたが忘れていた。「リボルバー」で我が心を撃ち抜かれてしまった、原田マハ熱!?が冷めぬうちにと購入。

シネコンを手掛けるデベロッパーを退社した39歳独身の円山歩が主人公、突然の退社とギャンブル好きの父が病気で倒れることが重なり、両親の仕事であるマンション管理の仕事を手伝いながらも途方に暮れる。しかし、ひょんなことから映画雑誌「映友」の編集部に映画評論のライターとして採用される。

映友が立ち上げた「キネマの神様」というブログに、無類の映画好きの歩の父がハンドルネーム「ゴウ」として加わり、斜陽だった映友を救って行く。歩と父、編集部の面々、名画座主人のテラシン等、映画が好きで好きでたまらない人々が奮闘する物語だ。そして、「ゴウ」と海の向こうから評論対決する「ローズ・バッド」との奇妙な友情に泣かされる。

あぁ、無性に映画館で映画を見たくなった。田舎にも名画座があったらなぁ。足利市じゃ採算取れないか。シネコンは味気なさ過ぎるんだよね。先日、エンニオ・モリコーネの特集をTVで見たばかりなので、この小説でも絶賛されている「ニューシネマパラダイス」を見直してみるか。


昔は、映画が本当に身近だったなぁ。妻との初デートは有楽町で映画を見た。どんな映画だったか覚えてないけど、ロマンティックな作品ではなかった気がする。というか、隣にいる妻のことが気になって、映画の内容なんて全く入って来なかった。

「港が見下ろせるこだかい公園♪」にも、付き合い始めの頃、行ったっけ。

1995年11月頃の港の見える丘公園、タバコ片手の自分が懐かしい…

そうだよな、大河の如く、時は流れて、もう戻れぬのだよ。
こんなことは今までなかった
あなたがぼくから離れてゆく

この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?