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生きる事がつらいとか 苦しいだとか言う前に 野に育つ花ならば 力の限り生きてやれ~読書note-23(2024年2月)~

社長になって最大のピンチだった2月末期限の短期貸付ウン百万の一括返済、何とか金をかき集め無事に乗り切った。ホッとしたのも束の間、さてすっからかんになった今月をどう耐え凌げはいいのか。胃に穴が空きそうな日々は、まだまだ続く。

そんなこんなで、とてもボランティア活動をやっている場合ではなくなったので、10年間続けてきた地元の小学校の読み聞かせボランティアを今年度限りで辞めることにした。先月29日が最終日で、担当は特別支援学級だった。

最後に読み聞かせた本「りんごかもしれない」「本屋のラク」

私の読み聞かせは、面白い、笑える内容の本が中心なので、大勢でわいわい子ども達の反応を楽しみながら読むのは得意なのだが、特別支援学級のような静かで少人数相手は苦手だった。でも今回は、凄くニコニコ笑顔で聞いてくれる低学年の男の子と女の子がいて、今までの特別支援学級での読み聞かせの中で一番上手く読めたかもしれない。

彼らの目を輝かせて聞く姿に、あぁこれだから読み聞かせは楽しいんだよなぁと。つい辞めたくないと思ってしまった。この10年、特に後半の5年は公私共に辛い日々が続いて凹むことが多かった。でも、読み聞かせに来ると、元気で純粋無垢な彼らからいつも勇気をもらっていたのだ。

何とか会社を立て直して、もう一度、この場所に戻ってきたい。とは言え、現実は先に述べたように厳しく、2月もたった2冊しか読めなかった。まぁ、12月、1月の1冊よりは良くなったと思うことにしよう。


1.きのうのオレンジ / 藤岡陽子(著)

本が人生を救う、本が人生を変える、などと大層なことは言えない。でも、この本を読んで、ちょっとだけ気持ちが前向きになった。まだ頑張ろうという気になった。本にはそういう力があると思う。

日々資金繰りに追われ、生きる気力を失いかけてた先月上旬、「これは気分を変えなければ!」と本屋へ行ったら、元山屋としては表紙の冬山に佇む二人の後ろ姿にビビッときて購入。表題はオレンジ色の登山靴のことだと知り、俄然興味がわく。

33歳の若さで胃がんの宣告を受けた笹本遼賀が主人公、都内のレストランの店長を任され、人並みに真面目に生きてきた若者である。なんで俺がと戸惑いながらも、懸命に前を向いて生きようとする遼賀と、それを支える弟・恭平、母、そして同級生の看護師・矢田泉らとの闘病を通しての愛溢れる物語。

がん闘病ものという物凄く重いテーマだし、双子でもないのになぜか同い年である弟・恭平や両親との関係も重いし、15歳の時の冬山での遭難のエピソードも重いし、矢田泉の抱える私生活の悩み(遼賀の担当医師とのかつて不倫や実家との関係)も重い。

でもなぜか、読んでいるとそれほど重く感じぬ心地良さ、軽やかさがある。それは、解説で大島真寿美さんが書かれたとおり、野に咲く花のような遼賀の人柄にあると思う。この物語に奇跡は起こらない。例えば、自分が昨年のNo.1に挙げた「少年と犬」(馳星周)のように。淡々と死に近づいて行く様子がリアルに描かれる。でもとにかく、遼賀の健気さと優しさに心奪われるのだ。

ちょうど、友人の父の葬儀に出た際にいただいた会葬御礼に書かれてた、友人がお父様の人柄を評した文章を読んで、同様の感想を持ったから余計にそう思う。「派手なこと、特別なことはなくとも、周りを思い実直に歩むことこそ、何よりも尊いのだと教えてくれた父」と。

自分はずっと漠然とだが、「人生で成功を収めたい、勝ち組になりたい!!」と思っていた。そんな気負う必要もなかった。成功者にはなれなくても、健気に人に優しく生きることは出来る。そんな人生を送りたいと思わせてくれた。この本読まなかったら、2月を乗り切れたかどうか。いやぁ、読むべき本とは読むべきタイミングで出会えるものなんだなぁ。


2.イマジン? / 有川ひろ(著)

次男坊がこの春に大学卒業して、映像制作会社で派遣社員として働くことになったので、いったいどんな業界なのか知ってみたくて。航空自衛隊の広報を描いた「空飛ぶ広報室」など、お仕事小説を書かせたら天下一品の有川ひろさんのこの作品を知っていたので、早速購入。

27歳にもなって歌舞伎町でキャバクラのビラ配りをしていた良井良助(イイリョースケ)は、ある日突然、先輩から映像業界のバイトに誘われる。待っていたのは、かつて一度は目指した映像制作の仕事の現場だった。そこで、少しずつ結果を残していき、ドラマや映画の制作の請負会社「殿浦イマジン」の正社員となって、夢だった映像制作の現場で奮闘し成長していく物語。

いやぁ、次男をこのリョースケに重ねて読んでしまった。次男の担当は、朝の情報番組らしいが、夢は大好きなバラエティー番組に携わることだと思う。これを読んで、いや、ドラマも良いんでないかと思ってしまった。まぁ、とにかくトラブルが日常茶飯事の制作現場では、下っ端は雑用に追われ、走って走って走りまくるしかないのは分かった。

しかし、有川先生、凄いな。この本が書かれたのは2020年1月だというのに、監督によるパワハラだったり、某事務所のような性加害構造だったり、映像化における原作と脚本の関係だったり、後に社会問題となることを既に題材として扱っている。

そんなスリリングでシビアなテーマも、個性豊かな「殿浦イマジン」のメンバーの魅力と映像への情熱・思いを描くことで、エンターテインメントとして堪能できる。とにかく、次男が携わる現場が、「殿浦イマジン」の面々のような厳しくも温かいメンバーだったらいいなと願うばかり。


しかし、次男はリョースケほど(先輩に意見したり、プロデューサーに吠えたり…)自分を主張できる人間ではないので、過酷な現場で潰されやしないか、ホント心配だ。どちらかと言うと、遼賀タイプかもしれない。派手なことは出来ないが、コツコツと真面目に仕事をこなし、周りに優しさを配ることは出来るかもしれない。野に咲く花のように…それでいいのだ。


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