相談委員長の考えごと第3回

相談委員長の考えごと 第3回~ききかた、とは~

私たちは、NPO法人京都自死・自殺相談センター Sottoです。
京都で「死にたいくらいつらい気持ちを持つ方の心の居場所づくり」をミッションとして掲げ活動しています。
HP: http://www.kyoto-jsc.jp/

Sottoが行っている活動は幅広く、根幹となる電話・メールによる相談受付に加え、対面の場での居場所づくり活動、広報・発信活動などがあります。
各活動は委員会ごとに別れ、日々の活動を行っています。
今回から、電話相談を担当する「相談委員会」の委員長である「ねこ」さん(もちろんあだ名です)の、Sottoの活動を通して考えることを月刊連載としてお届けします。

Sottoの立ち上げ当初から活動に関わり、Sottoの文化を形づくることに貢献し、現在は電話相談ボランティアの養成を担当しているねこさん。
そんな立場から、Sottoの活動や、死にたいという気持ち、人の話を聞くということなど、様々なことについて考えることを語ってもらいます。
この連載が、読んでくださる皆さんにとって新しい気づきを得たり、死にたいくらいつらい気持ちについて理解を深めたりするような、そんなきっかけになれば幸いです。

第1回はコチラ→相談委員長の考えごと 第1回~死にたい気持ちについて~
第2回はコチラ→相談委員長の考えごと 第2回~「しんどくならないんですか」~

第3回~ききかた、とは~

「どうやって話を聞き出しているのですか」

何も特殊な技でもって自白させているわけでも、相手を催眠にかけているわけでもないのですが、ちょいちょい聞かれることなので、はたから見ると不思議に感じられるようです。

もちろん、キャラクターによる相性有利も理論上あるでしょうが、絶望的に合わないということもあるので一長一短です。
コツらしいコツは伝えられないかもしれませんが、手がかりになるようなことがあれば幸いです。

 講座などの機会によくたずねられるのは、いわゆる型とかコツのことです。仕事や勉強、スポーツ、そしてあらゆる"道"のつくもの(書道、剣道、柔道、茶道、華道 etc.)においては、基本に忠実であること、王道の型を逸脱しないことこそが上達への近道であるとされます。

その道の先人たちが築き上げた、効率最適化された型の踏襲が、事実、パフォーマンス向上には必須でしょうし、またそれを踏まえてはじめて自己流が磨かれるのだと思います。
それっぽく言えば、真理・真髄に触れて初めて自分のモノとして応用可能なところがあります。

通常、新しいことを始める際には、まずは基礎の反復をしながら、型の継承を目的に時間を費やすものです。
多分だいたいのことはそういうものなので、方法を教えてもらえないとできないと思うのは自然な発想です。

 しかしながら、人とのコミュニケーションや付き合いにおいては、いくらその手の本を読んで真似たとしても、必ずしもうまくいくものではありません。
むしろ痛い目を見たりするようなことは想像に難くないはずです。よくあるファッション雑誌の恋愛特集など、娯楽として楽しむ分にはいいですが、それが参考になったということは、…私はありません。

たとえば、店員の態度が気に食わないとか、カスタマーセンターの対応に腹を立てたという経験があるかと思います。
「マニュアル対応しやがって!」という一方で、「マニュアル対応もできんのか!」と憤慨したり、矛盾だらけで理不尽な話のようですが、実際にありえる話です。

また、散々駄々をこねた子どもにお母さんが折れる場面では、要望が通ったにも関わらず機嫌が直らないということもあります。もしくは、宿題をしようとしたところに、宿題せなあかんでと言われてやる気をなくしたり。これらは一体どういうことなのでしょうか。

 人は自分が、あるいは自分の気持ちが大切にされていない、蔑ろにされたということには敏感です。
相手に悪気がなかったとしても、関心を向けられていないと感じると、悲しくなるものです。
そして、言った通りにしても機嫌が直らないというのも、わがままではあるのですが、わかってもらえなさというショックでいっぱいなことを思えば、後を引く感情は少なからずあって当然かもしれません。

これは経験則なのでまだ十分に説明しづらいところもありますが、人は意図的に、ときに無自覚ですが、根っこのところの感情について伝えなかったりします。
恥じらいやプライドの絡む部分もあるのでしょうが、なぜかそういうものです。

言葉になって出る不満と、実際の悲しみにはギャップがあるのです。
さらには、感情表現の際に必ずしも的確な言葉の選択ができるとは限らないので、不満を表出するために口をついて出た言葉に過ぎないことすらあります。

 しかしそんな状態のときでも、話せる相手に対しては話せるというのは、相手がきちんと聞いてくれるからに尽きます。逆に話せないというのは、聞いてもらえないからです。必殺の殺し文句や、万能の相槌のような攻略方法はありません。聞いてもらえるから、話したくなるし、よりわかってほしいから言葉を重ねます。ただそれだけです。

相手のわかってほしいだろうことに対して、関心を持ってわかろうと努める。言葉を重ねてまで伝えたい気持ちがあることを自覚して臨むことが、いわゆるコツと言えるでしょうか。
事情の把握や状況整理は、1つの方法であり過程にすぎず、重要ではないとも言えます。

実は相手も人間なので、自分と同じように瞬間瞬間で気持ちが揺れて動くのです。
実はと書いたのはバカにしているわけでなく、当然のことなのに、あまり想定しないからです。今相手が何を感じているかということから目をそらさないこと。
やりとりとはこれの連続なのです。

相談委員長 ねこ

つづき⇒第4回「話すということ
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