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万引き家族

是枝監督の描く、生活臭が好きです。

生活臭って“生活の臭い”と書くように、目で見て分かるものではなく、漂ってくる雰囲気を指すもの。例えば、物がない部屋を見て、"生活感がない"と言うことがありますが、どんなに"生活感"がなくても、人がそこに住んでいれば、“生活臭“は必ず存在すると思います。つまり生活臭って、そこにある物理的なモノをどうにかしたところで簡単に消えるものではないように、簡単に作ることができないもの。

是枝監督の映画にはそういう、生活に染み込んだ臭い、みたいなものがうま~く描かれています。

もう何十年も前からそこにあります、ここに住んでます、みたいな雰囲気。

それは、セットづくりのこだわりもあるでしょうし、登場人物たちの服、身に着けるもの、何気ないセリフ、しぐさ、全てがうまい具合に融合して醸し出されるものなのでしょう。

そういう生活臭が、スクリーンからあふれ出て、映画館を包み込み、まるで自分が映画の一員になったような錯覚に陥る。映画の中の日常を、自分の日常として感じることができる。

是枝監督の映画を見るというのは、そういう映画体験だと思います。

座卓を囲んで家族で食べる食事、音だけ聞こえる打ち上げ花火、誰かが爪を切る音、夏の暑い日に畳の上で食べる素麺、突然の夕立。こういった光景が、自分の中にある似たような経験を呼び起こし、リンクし合って、郷愁というか、切なさというか、何とも言えない気持ちになりました。

息子の祥太の目を通して家族を見る時、そこには刹那的な居心地の良さが映ります。大好きで守りたいけれど、このままではいられない。善と悪の2色で割り切れない現実を目の当たりにする戸惑いを演じた、印象的な目が忘れられません。

言うまでもなく、安藤サクラさんの最後の涙シーンは、鳥肌ものでした。あれは絶対にスクリーンで見るべき名演だと思います。

いつか、映画史を振り返るような映像が作られ、いろいろな映画からシーンを切り取ってモンタージュが作られる時(よく映画祭の最初に流れるやつ)、間違いなくその一部に選ばれるでしょう。

ところで、英語タイトルは「Shoplifters」(万引きする人たち)なので、家族感はゼロ。

改めて「万引き家族」って絶妙なタイトルだなと思いました。

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