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お風呂で本は読まないけど、お風呂で本のことはよく考える。

雨の予報が出ている朝の匂い。湿り気と鼻にツンとくる寒さ。小学校の通学路を思い出す。

最近のちっこい悩みは推しがいないこと。母にも祖母にも推しがいるのに、なぜ私にはいないんだ。いや、別に推しがいなきゃいけないわけじゃないけどさ、日々の癒しといいますか、楽しみといいますか、そういうことがちょっとあってもいいよね。バンドとか、俳優さんとか。とりあえず、今のところは、本が推しの役割を果たしてる。とりあえず、良しとする。


湯船に浸かってアイスを食べたり、本を読んだり、映画を見たり…ずっと憧れているけれど、悲しいかな、私には向いてないアクティビティなのです。まず、溶けたアイスが好きじゃないし(スジャータアイスらぶ。硬いアイス万々歳。)、確実に本を濡らす気がして集中力が続かないし(私は家の中をずっとぐるぐる歩きながら、本を読むタイプの人間。)、ずっと同じ体勢で映画見れないし。(お尻痛くない?)温泉や銭湯、サウナに興味がないからなのかな。って言っておいて、10年後くらいに湯船でアイス食べまくって、行きつけの銭湯を作ってたりしたら、またご報告しますね。

じゃあ、私、お風呂で何をしているのかって。ぼーっと天井の換気扇を見上げたり、ふくらはぎをマッサージしてみたり、英語のスピーキング能力が衰えないように、ぶつぶつ独り言を呟いてみたり、たまに泣いたり。お風呂でじぃーっとしてると、なぜか昔の失態や未来の不安がもくもく湧き出てくる。なんなん、あの現象。あったかいお風呂には浸かっていたいけど、ずっと暗い気分に浸りたくないので、なるべく違うことを考えるように意識、意識。そして、大抵の場合、私の思考が行き着く先は本のこと。

ここ1~2週間、湯船でよく思いをはせているのは(名付けて湯船本?お風呂本?ネーミングセンスがある方、いらっしゃいませんか)、村上春樹の「風の歌を聴け」とCoco Mellorsの「Cleopatra and Frankenstein」。

「鼠三部作」の1作目である「風の歌を聴け」。先日、谷中の古本屋さんで、2作目の「1973年のピンボール」を購入したということもあり、再読したいなぁ、とぼんやり思っていた。

「本なんてものはスパゲティーをゆでる間の時間つぶしにでも片手で読むもんさ。」

村上春樹「風の歌を聴け」p58

浴槽の中で膝を抱えてゆらゆらしている時に、ふと思い出した一節。私はこの台詞がとても好き。読書の本質を突いているところ。スパゲティーと本が同じレベルに存在しているところ。ぶわっと風景が自然と頭に浮かぶところ。村上春樹の作品はやたらスパゲティーが登場することで有名だよね。スパゲティーだけじゃなくて、常に食が絡んでくるよね。読んでると微妙にお腹が空いてくるよね。

短い作品ではあるけれど、読み返すたびに深みが増していく。言葉と感情の引き出しが増えていく。嚙み応えのある小説。

「死んだ人間に対しては大抵のことが許せそうな気がするんだな。」

p23

「空が好きなんだ。いつまで見てても飽きないし、見たくない時には見なくて済む。」

p116

「Cleopatra and Frankenstein」はCleoとFrankが永住権のために衝動的に結婚したことから始まる物語…なんだけど!私が2024年に読んだ本で、トップ5にもう絶対入る。(はい、まだ3月ー。)主人公のCleoとFrankより、彼らの周りを取り囲む家族や友人が素晴らしい。スタンディングオベーション。

特にFrankが経営している広告会社で働き始める、Eleanorが最高過ぎて。私のツボで。共感が止まらなくて。泣きたい。

I'm still in the office when I see an email from Frank pop up on my screen.
I forgot to ask how it's going over there with Myke.
Oh, just fyne, I reply.
I can hear Frank laughing from my desk.

Coco Mellors "Cleopatra and Frankenstein" p128

お風呂でまたまた1人で反省会を開催してたら、案の定ね、お先真っ暗な気分になってきたので、楽しいことで気を紛らわそうと考えたのが、この場面。もー、大好き。状況としては、Eleanorの同僚にMyke(Mikeじゃなくて、yがつくMyke)がいるんだけど、上司であるFrankがEleanorに「Mykeとはどう?」と聞いたところ、「うん、素晴らしくいい感じよ(fineじゃなくて、Mykeと同じようにyがつくfyne)」という返答が返ってくる。私の説明は下手だけど、Eleanor、あなたは天才ですか。この絶妙な皮肉!抜群なユーモアのセンス!実在するなら、弟子入りさせて欲しい。ずっと真面目に真剣に深刻にふざけている。ある意味、頭がものすんごく良いんだろうなぁ。自分の膝に向かってニマつく。沈んだ気持ちはお湯の中に溶けていってたよ、いつの間にか。

I am lonely, of course. I'm so lonely I could make a map of my loneliness.

p126

*この作品には鬱病、自殺、薬物、アルコール依存症などの描写が含まれます。

本を読むのはもちろん好きだけれど、本のことを考えている時も同じくらいしあわせだ。


東ハトの「クラッシュコーン」がおいしすぎる。知らなければ良かった。取り急ぎご報告まで。


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